愛は手から零れ落ちる 2nd.
それから3日程経った夜、そろそろ店を閉めようとしていた時だった。
店のドアが開いた。
「もうすぐ閉店でして・・・」
マスターがお客様にお伝えしようとしていると・・・
「オヤジ・・・お袋・・・」
壮が彼らに言った。
「マスターすみません。俺のオヤジとお袋です。」
「いつも壮がお世話になっています。」
「いいえ、こちらこそ。お世話になっています。」
マスターは大人の挨拶をした。
「あの、ちょっと壮と話をさせていただいてもよろしいですか。」
「はい。もう店を閉めますから、どうぞごゆっくり。」
「ありがとうございます。あの、申し訳ないのですが、マスターも朋美さんも聞いていて欲しいのです。」
壮がいきなり来た二人にあきれながらも言った。
「せっかく来たんだから、なんか飲んだら?」
「ああ、そうだな。お前の得意なモノを作ってくれ。」
「ジンリッキーなんてどう? 」
「いいね。」
「お袋は何にする?」
「綺麗なカクテルがいいわ。」
「・・・なら、今日の服の色に似ているブルームーンはどうかな。」
「まかせるわ。」
二人は壮がカクテルを作る姿をじっと見ていた。
マスターが私の耳元でそっと教えてくれた。
「朋美ちゃん、ジンリッキーのカクテル言葉は“素直な心”、ブルームーンはね、“完全なる愛”と“叶わぬ恋”というちょっと不思議なカクテルなんだよね。でもシンプルに服の色からだけなのかね~何考えているのやら・・・」
壮は二人の前にカクテルを置いた。
お母様はグラスを持って、眺めながら口を付けた。
「綺麗だし、おいしい。・・・壮、カクテルを作っている姿、カッコ良かったわ。」
「・・・それで何? 話って。」
「壮、今まであなたの話もちゃんと聞きもしないでいろいろ反対したりして悪かったわ。これからは私達は見守ることにしたわ。だから好きにしなさい。朋美さんと結婚して幸せになりなさい。」
「お袋・・・」
「壮、僕らは半年後にオーストラリアに行くことにした。向こうで暮らす。死ぬまでな。日本に帰ってくるつもりはない。」
「えっ? また何で・・・」
「前から考えてはいたんだ。2年ばかり早期退職をする。丁度良いタイミングでね。だから壮、悪いけど爺さん頼んだぞ。」
「ああ・・・」
「朋美さん、あなたと仲良くしたいけど、私の性格ではどう付き合ったらよいかわからない。あなたたちの子供が生まれても見てあげたりも私には出来ない。悪く思わないでね。」
「あの・・・いつか、子供が出来て大きくなったら遊びに行ってもいいですか?」
「そうね。それならいいわね。あなたの想いは嬉しかったわ。思い通りにならなくてごめんなさいね。」
「そんなことありません。」
「マスター、すみませんがこれからも壮と朋美さんをよろしくお願いします。奥様にもよろしくお伝えください。」
「はい、しっかりと面倒見させてもらいます。」