愛は手から零れ落ちる 2nd.
「櫻井、朋美ちゃんちょっと!」
マスターは店を開ける前にテーブル席に二人を呼んでマスターの前に座らせた。
「はい、ちゃんと説明して。」
マスターは腕組みをして少し怒ったような顔で二人を凝視した。
「マスター、すみません。さっきは朋美を助けてもらって。あの男は吉川と言って僕の大学の時の同級生です。ちょっとやっかいなヤツで・・・。先日丁度二人でいるところに出食合わせてしまって、因縁を付けられました。」
櫻井はマスターの目をしっかりと見て説明した。
「ふーん。櫻井・・・お前さー・・・そのまえに僕に報告することあるんじゃないの? 」
「えっ? あっ、そっか・・・すみません。ご報告が遅くなりましたが、俺たち付き合ってます。そして一緒に暮らしています。」
「ふぅ・・・まあ、付き合ってるのは知ってたけどね。」
「気付いてました?」
「あのさ、何年この仕事してると思ってんの? そういう事には敏感なんだよね・・・でも一緒に暮らしてるとは・・・全く・・・普通すぐ報告しない? それでいつから?」
「えーっと、実は朋美が俺の隣に引っ越して来た日から付き合い始めて、その後1ヶ月後に今のマンションに二人で引っ越したので、かれこれ4ヶ月です。」
「あっそう、まーおかしいと思ったんだよね。お前、ゲイでもないのに朋美ちゃんにそんなこと言ってるし。その割には自分の家の隣に住まわせたりするしさ。僕は二人のこと好きだから応援するけど、言ってくれなかったのは寂しいな・・・」
「すみませんでした。俺、マスターに朋美を毎晩送らせるのイャだったから・・・」
「あらら~やきもちやかれてたってこと?」
「うーん・・・まあ・・・」
「そっか。それとさ、櫻井。お前もう一つ俺に言うことあるよな。」
「えっ?」
「昼間の仕事だよ。」
「あー、すみません、そっちもバレてましたか。まあ隠していたわけではないんですけど、ジイちゃんの後を継いで不動産屋の社長になりました。一応宅建持ってるんで。」
「社長になったの? そこまでは知らなかった。」
「すみません。報告しないで・・・」
「このあいだ不動産屋の前通ったら、お前が机に向かってしっかり仕事しているようだったからさ・・・へー・・・お前が社長ね・・・それで、二人ともこの後どうするの? 昼も夜も仕事するの?」
「はい。そのつもりです。」
「まあ、僕としては勤めてくれるのはありがたいのだけど、出来るの?」
「はい。俺の不動産屋は普通の不動産屋とはちょっと違って、会社相手が殆どなので基本土日は休みなんです。それと優秀なベテラン社員が居るので大丈夫です。朋美の方は、会計事務所の勤務時間を短くしましたので、こちらも大丈夫です。」
「そう。ならいいけどね。まだ二人とも若いから過信しているかもしれないけどあんまり無理するなよ。それと、さっきの男は気を付けろよ。あの目は少しヤバイぞ。」
「はい。気を付けます。スミマセン。」
「朋美ちゃん、なるべく一人で歩かないようにね。」
「はい。マスター、いろいろすみませんでした。」
「なんでも相談してくれよ。寂しいからなー。OK! じゃあこれからもよろしく。さーOPENするよ。」