愛は手から零れ落ちる 2nd.
それから1週間、何事もなく吉川のことを忘れかけていた。
「いらっしゃいま・・・」
「みーつけた。」
「吉川・・・さん・・・」
「今度は名前覚えていてくれたんだ。ここなんだね、朋美ちゃんが勤めている店って・・・」
「朋美、下がってろ!」
櫻井は慌てて朋美を自分の後ろに隠し、吉川の前に飛び出した。
「おやおや、へーこの店に櫻井君も居たとはね・・・ふーん。二人ご一緒にお勤めですか・・・仲がよろしいことで・・・じゃあさ、お祝いしてやるよ。この店で一番高い酒出してよ。」
「お前に出す酒はない。帰れ!」
「おやおや、櫻井君・・・客ですよ~ 客の俺に酒を出せないっていうのか!」
吉川は大声を上げた。
「お客様、他のお客様のご迷惑になりますから、どうぞこちらに。」
マスターは吉川をカウンターの人がいないところに座らせた。
マスターは水を一杯、吉川の前に置いて小声で言った。
「これ以上騒がれるようでしたら警察に通報します。相当酔われているようですのでこれを飲んでお帰りください。」
「ふーん。俺に出せる酒はないからって水かよ。」
吉川はグラスを払って、店内にグラスの割れる音が響いた。
「また来るからな。」
吉川はドアを乱暴に閉めて店を出ていた。
それを見て、櫻井は吉川を追った。
「櫻井、追わなくていい!」
マスターはそう言ったが、櫻井は店を飛び出して行ってしまった。
マスターはその時お店にいた常連のお客4名にお詫びを言い、お代をタダにして店内を収めた。
それから1時間しても櫻井は戻ってこなかった。
マスターは客が途切れたのを見計らって早めに店を閉めた。
「朋美ちゃん、櫻井の携帯繋がった?」
「いいえ、さっきっから何度か掛けているのですが、繋がりません。」
「そうか。ならちょっと探してくるから朋美ちゃんは店の鍵を閉めてここに居て。絶対ここから出たらだめだよ。見付かったらすぐに電話するから、いいね。」
「はい・・・大丈夫ですよね・・・」
「大丈夫だよ。櫻井は。」
「マスターよろしくお願いします。」
私は携帯を握りしめたまま、ずっと連絡を待った。