愛は手から零れ落ちる 2nd.

待てど暮らせど壮からもマスターからも連絡は無かった。

私は店内をうろうろするばかりだった。外からパトカーや救急車のサイレンの音がする。日常茶飯事なのに今日はやけに大きく聞こえる。音がするたびにドキドキして胸騒ぎがする。
違うよね、違うよね、と思いながら何度もその音が遠くなるのを待った。

時間が過ぎても誰からも連絡がない。
誰もいないバーの中、落ち着かない私は洗い物をしたり、机を拭いたり、身体を動かした。
そうでもしていないと不安で震えが収まらなかった。


どのくらい経っただろう、携帯が鳴った。非通知の番号だった。
恐る恐る電話に出ると・・・

「嶋村朋美さんの携帯でお間違えないですか?」

「はい・・・嶋村です。」

「こちら日浦総合病院です。櫻井 壮さんの携帯の緊急連絡先が嶋村さんでした。櫻井さんはお知り合いで間違えないですか?」

「えっ? はい、そうです。それで、それで壮は?」

「路上で刺されまして、こちらに緊急搬送されてきました。処置は終わりましたが、まだ意識が戻られておりません。」

「そんな・・・すぐ参ります。」

震えた・・・マスターに連絡しなくては・・・手が震え、携帯の操作がなかなかできなかった。

「マスター、櫻井君が・・・」

やっとのことでマスターに連絡を入れた。近くにいたマスターは飛んで帰ってきて私を連れて病院に向かった。


「朋美ちゃん、しっかり。櫻井は丈夫だから大丈夫、大丈夫・・・」

「もう・・・誰も失いたくない。前も・・・前の時も・・・こんなで・・・結局・・・私の前からいなくなった・・・イャァ~」

「朋美ちゃん、しっかり。」

マスターは私の背中をさすり、必死に慰めてくれた。
涙が・・・果てしなく流れる・・・声は・・・もう出ない・・・
マスターは力いっぱい私を抱きしめてくれた。
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