愛は手から零れ落ちる 2nd.
タクシーで病院に着いた。
壮は集中治療室に入ったままだった。マスターと私は待合室で夜を明かした。
朝、陽が昇り病院の窓からはまぶしい光が差し込んできた。その光につられ私は泣き腫らした目を必死に開いた。
マスターが暖かい缶コーヒーを買って来てくれたが、飲むことは出来ず、ずっと缶を握りしめていた。
それから間もなくして、
「あの、櫻井さんが目を覚まされましたよ。これから一般病棟に移りますからね。もうすぐ会えますよ。」
看護婦さんが天使に見えた。
「壮、壮・・・」
「櫻井・・・わかるか・・・」
「あー、朋美・・・マスター」
「あー良かった。」
「もー・・・」
私はまた涙で言葉が出なかった。
「櫻井、無理しやがって。」
「すみません。ナイフ持っているとは思わなくって・・・それで吉川は?」
「まだわからない・・・」
「あの・・・マスター、吉川が捕まるまで朋美をお願いします。」
「ああ、わかった。安心して眠れ。」
また壮は寝てしまった。
先生が来て、もう大丈夫だから一度戻って寝てくださいと言われた。
マスターは私をマンションまで送り届けてくれた。
「朋美ちゃん、出かけるときは連絡してね。今日は会計事務所を休んだ方がいい。それでまた午後にでも一緒に病院に行こう。いいね。絶対に一人で出歩いてはダメだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
マスターは帰って行った。
私は壮の入院準備を整えた。そして、それが出来て少しホッとしたのかソファでウトウトして、数時間が経った。
「ピンポーン♪」
一階のエントランスからインターフォンが鳴った。
私はマスターかなと思ってインターフォンの機械に移っている画像を見た。・・・吉川だった。
「ピンポーン♪ ピンポーン♪ ピンポーン♪ ピンポーン♪」
しつこく鳴った。
怖くてどうしたらよいかわからなかった・・・やっとのことでマスターに連絡した。
「マスター、助けて! 吉川がマンションの下に来てる・・・」
「朋美ちゃん、すぐに行くから、絶対に誰が来ても開けてはだめだよ。そこは10階だから大丈夫だと思うけど、念のためドアも窓も閉まっているか確認して。」
「はい。マスター・・・お願い・・・早く来て・・・」