愛は手から零れ落ちる 2nd.

マスターは私を奥様のご実家であるお家に連れて行ってくれた。電車で約1時間の道のりだった。

「おーい、眞紀(まき)、連れてきたよ・・・」

「はーい。」
明るい声が聞こえた後、細身で長身の女性が出てきた。

「うわさの朋美ちゃんだよ。」

「あら、可愛いというか美人さん。あなたが可愛がるわけだわ。」

「ハハハ。」

テンポの良い会話だった。私はこの二人が別居中だとは思えなかった。

「嶋村朋美です。よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしく。私は清水(しみず) 眞紀(まき)です。この家には息子が二人とボケちゃってる母が居ます。ちょっとにぎやかだけど楽にしてね。」

「あっ、はい。よろしくお願いします。」

「そうそう、病院には私か旦那が付き添うから心配しないで。大切な彼氏さんだものね。」

「スミマセン。何から何まで・・・」


マスターは業者さんとの打ち合わせがあると早々に帰って行った。その後眞紀さんは家の中を案内してくれて、家族のことやマスターのことをいろいろ教えてくれた。
別居の理由は、一番は眞紀さんのお母様の介護だった。お父様は眞紀さんがまだ学生だった時に亡くなり、眞紀さんはお母様が一人で育てた。その苦労もあってか、病気がちだったところ4年前に軽い脳梗塞で倒れられてから徐々に痴呆になったという。その介護と当時まだ小学生だった子供もいたので仕事をやめて家族でこの眞紀さんの実家に引っ越したのだという。でも、マスターはあの店を移転して始めたばかりだった。通えなくもないが、どうしても夜が遅く生活のリズムが違うので、単身赴任のように一人暮らしをすることになった。その時ちょっと揉めたみたいだけど、休みの時などはちゃんと帰ってきているし、今となってはわだかまりはないらしい。でも、眞紀さんとしては本当は水商売がイャだと言った。最近さらに大学生の息子がバーを継ぎたいなんて言い出したので、さらにイャだと嘆いていた。
マスターが幸せだということがわかり私はホッとした。
私はお世話になる間、家事を手伝わせてほしいとお願いした。眞紀さんは私がその方が居やすいのだろうと察知してくれて、了承してくれた。

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