無口な彼の素顔〜職人技に隠された秘密〜
 黙々と作業をしながらも、この時瑛斗は内心ではかなり驚いていたのだ。

「お疲れ様です~」

 初めて見る瑛斗にも、邪魔をしないようにか遠慮がちに声を掛けてきた。チラッと見ると、現場用なのだろうか髪を一つに束ね、薄めの化粧に、すぐに作業を手伝えますと言いそうな格好をした小柄で可愛らしい女性が瑛斗を見ていた。反応しないのも失礼だろうと軽く頭を下げたが、今までの経験上隙あらば声を掛けられるので警戒心が拭えない。

「優ちゃんすまんな。彼は、今日一人足りなくて急遽来てもらったんだ」
「そうなんですね。ありがとうございます。よろしくお願いします!」

 慎さんはもちろん、瑛斗が大橋建設の専務で御曹司だと知っている。その秘密を知っている数少ない大工の一人だ。知られてしまうと他の職人が気を遣ってしまうと秘密にしているのだ。

 急遽来てもらったと軽く言うが、理由は慎に雑な仕事を怒られ、突然辞めてしまったのだ。慎から直接連絡があり、人手が足りないから来いと、瑛斗は断る選択肢を与えられずだった。
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