捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?


 こんなことをしてまで最後に殿下を困らせてしまうなんて、私ったら本当に最悪な悪役令嬢ね。

 他に愛する人が出来たというのに、いきなり服を脱がされるなんてとんだトラウマを植え付けてしまったかもしれない。

 このままソファーから落ちて大きな音を立てればきっとカイもやって来て本来私が見たかった、服がはだけた主に従者が駆け寄り、寄り添いながら怒りを露わにするという場面も見られるはずなのに……胸は今までのように踊らなかった。

 初めて異性の上裸を見られたという喜びよりも、もう二度と殿下とこうして二人の時間を過ごすことも、触れることも名前を呼ばれることもなくなると思うと胸が張り裂けそうだった。

 こんなことをしてしまったのだ。殿下に嫌われるのは当然だろう。

 悪役令嬢として、最後の締めくくりには丁度いいのかもしれないと、やって来る痛みに覚悟して目を閉じた。


「ようやくマージュから触れてくれた」


 どれだけ待っても痛みが襲って来ることはなく、上から降ってきた安堵が含まれたその声に包まれながら、温もりの上にすとんと座る。




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