捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?


 目を開ければそこには整った殿下の顔があった。

 優しく見つめてくる殿下の綺麗な輝く瞳に吸い込まれそうになるけれど、彼の膝の上に座り、密着した殿下の直に感じる肌の感触に顔はまたしても赤く染まり頭は真っ白になる。

 この状況をどうにかしなければと身じろぐけれど、殿下は強い力で私を抱きしめる。
 
 
「マージュから来てくれたんだ。離すつもりはないよ」


「でん、か……」


「二人きりになりたいなんて……どんな事を言われるのかと内心焦っていたし、君に婚約破棄を承諾された時は正直かなり傷付いたけど、こうしてやっと触れることができた」


 どういう事なのか訳が分からなくて、色々と考えたいのに顔を覗いてくる殿下に狼狽えることしか出来ない。


「騙すような事をしてごめん。でも、どうにか振り向かせようと必死で、マージュの動揺を誘う作戦に出てしまったんだ。先程の令嬢役の子は、ただの王宮内で働く侍女だ。彼女とは何ら関係性はない」

 
「え……?」


「ずっとずっと、嫌われていた自覚はあった。それでも、マージュの本当の気持ちを確かめたかったんだ」


 私が殿下を嫌っている……?

 その情報は、一体何処から生まれたのか検討もつかない。

 こんなに優しくて誰からも好かれるようなこんな素敵な人を嫌うはずがないのに。




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