捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?
「殿下、その……私が何故殿下を嫌っていると?」
「マージュが好きそうなものをと思って選んでも、池に放り投げ込まれるほどの酷い贈り物を送ってしまったり。君の気持ちを聞かずに一方的に自分の気持ちを伝えてしまって、酷く嫌な思いをさせたり……沢山嫌な思いをさせてしまって本当にすまない」
「すみませんが、私は……一度も殿下を嫌いと思ったことはございませんけど?」
寧ろ私の方が嫌われていると思っていたぐらいだ。
私が物語のため欲望のために動いてしまうような、こんな悪役令嬢なのだから。
「嘘だろう?!あの日、マージュが会うのが苦しいと伝えてくれた時から、会ってくれなくなったから、てっきりもうダメなんだと思って……」
「だって、殿下こそ私に政略的な婚約者相手に気を遣わなくていいとおっしゃったから、私達の関係は政略的なもので仕方なく結ばれたものだと。だから私はこの国の一つの駒として、役目を果たそうと――」
「違う!政略的な婚約者相手に気を遣わなくていいとは確かに言った。でも、僕らは夫婦になる。夫婦に気遣いも必要かもしれないけど、想いを通わせて互いに心地のいい関係を作ってマージュの幸せを守れる男になるから、僕をしっかり見ていて欲しいと、そう伝えたじゃないか!」
力強い言葉に私は過去の記憶の糸を手繰り寄せた。
『政略的な婚約者相手に気を遣わなくていい。今はそれだけの関係なのだから。”でも”――』
そうだ。
自分の都合のいいように捉えた私は、その後の殿下の言葉を聞き流した。
その後に、そんな嬉しい言葉を言ってもらえていたのに、私ったら本当に馬鹿ね。