捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?
でも、これはまたとない大きなチャンスだ。
この絶好のチャンスを逃したら、いつこんな好機が巡ってくるかも分からないのだから。
殿下が令嬢と顔を見合わせて、一瞬困惑した様子を見せた気がしたが、今の私は必死だ。
なんせ、”裏世界”で有名な私には常にそれが必要になってくる。
どこか表情を硬くした殿下が頷いたのを見て、私は一人心の中で拳を握りしめた。
「その、願いとは?」
「殿下と最後にゆっくりと、二人きりの時間を過ごさせて頂きたいのです」
「二人きり……」
「ああ、私が恨みで逆上する心配もありますものね。カイ様を部屋の外に付けておく事は何ら問題有りませんので」
寧ろ居て貰わないと、私にとっては困るのだけど。
色々配慮した私の提案はあっさり承諾され、遂にやって来るその時を前に私は静かに目を閉じてこれまでのことを振り返りながら、熱くなる想いを立ち上がる力に変えた。
殿下の瞳に映る私は、いつにも増して活き活きして見えた。
これまでよりも更に上を目指せることができる、そう思うと胸の高鳴りが強くなっていった。
殿下と二人、客室に残った私は、扉の鍵を静かに閉めて殿下に向き直る。
「それでは、殿下。覚悟はよろしくて?」
叩き込まれてきた淑女としての笑みを浮かべた私に、殿下は僅かに目を見開いたのだった。