捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?
始まりから、ここまで。
*
私が生まれて初めてそれと出会ったのは、まだ物心ついたばかりの頃だった。
雨の日が多く続いていて、家にある本はほとんど読み漁ってしまっていたそんな時。
とある侍女達が何やらこそこそと、でもとても楽しそうに語らいながら一冊の本を抱きしめていた。
何が書いてあるのか知りたい、ただそれだけだった私にその本は人生を大きく変える衝撃を与えてきた。
「なぁに、これ……」
その本に書かれていた内容、それは――男性同士の恋愛小説だった。
童話にもどこにもないその魅力的な話は、私の心を鷲掴みにして離さなかった。
一度読んでしまったら、虜になってしまっていたのだ。
ただその本はあまり世間には知れ渡っておらず、闇市でしか買えない影に紛れてひっそりと存在しているものだと知った。
世間からは疎ましく思われる、日の目を浴びることが出来ない可哀想な物語。
だけど、素敵な世界が待っている私には大切なもので沢山その世界に触れたかった。