捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?
だったらどうするか、答えはそう難しくない。
「私が作家になればいいのよ!」
そう思ったら、私は我武者羅に物語を書き殴った。
でもただの一読者が直ぐに物語を書けるわけもなかった。
どれだけ書いても、自分の心は満たされることはなくてただ虚しさだけが残った。
そんな時に、私の婚約者が決まった。
政略結婚に興味の無かった私は、ただそれを素直に受け入れた。
初めて殿下にお会いした日。そこから、私の全てが輝いていった。
「初めまして、マージュ嬢。僕はクラデス。どうぞよろしくね」
「クラデス様の側近のカイです。お見知りおきを」
生まれて初めて見る美貌の持ち主である殿下に、四つ年上の幼馴染である側近のカイという二人と出会ったことで私は”お腐れ令嬢”として開花したのだ。
(なんという最高のカップリングなの……!)
自分が婚約者であることも忘れ、ただ二人の邪魔にならないよう徹底的に立ち振る舞った。
そこから生まれたネタを私は世の中に発信していったことで、今では裏世界と呼ばれるお腐れ界隈の有名作家にまで上り詰めた。
二人のやり取りはとても私の心を豊かにした。ただそれだけで良かったはずだった。