捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?
でも――それ以上を求めてしまったのだ。
物語を書くために、手段を選んではいられなかった。
ある時は、殿下が持って来てくださった花束をわざと池に落として、カイに取りに行かせ濡れた彼を心配させる殿下を眺めたり。
ある時はわざと殿下の服に飲み物を零して、カイに介抱させたり。
ある時はきつい言葉をかけた後、互いに励まし合わせたり。
いつしか自分のそんな数々の行いを見て、周囲は巷で噂の悪役令嬢だと囁き始めていた。
「マージュ様はお茶会に呼ばない方がいいですわ」
「わたくし達、虐められたくありませんもの」
「本当に怖い……」
婚約者を蔑み、己の立場を利用する悪役令嬢と噂は広がり、同年代の令嬢との関わりはほとんどなくなった。