捨てられる前に、最後にひとつよろしくて?
殿下と隣にいるカイは一枚の絵のような美しさを秘めているというのに、いつものように胸が踊らなくなる日も多々あった。
知らない感情に戸惑う私は殿下に会うと苦しいのだと、はっきり気持ちを伝えると、彼はこう言った。
「政略的な婚約者相手に気を遣わなくていい。それだけの関係なんだから。でも――」
最後まで聞かずに、気を遣わなくていいと言ったその一言だけで、私の心は軽くなった。
私はただ殿下をお慕いしているだけの、政治的な一つの駒でしかないのだと全て理解した。
だから形式的に会うことをやめて、二人だけの時間を作ることもやめた。
婚約者として周囲が仲を深めるようにと声を掛けてきても、私は全て聞く耳を持たなかった。
殿下は始めから、私をそういう風にしか見ていなかったのだから。
駒として扱うには優しく餌付けをしておけば、事が進むのは早い。
だから、いつも優しくしてくれていたんだと悟った。