私の隣の席は塩対応な相澤くん。

塩対応男子な相澤くんと本屋さんでバイトすることに!?

 春になりました。
 学校の校庭の桜が綺麗です。
 教室の窓からよく見えるんだ。

 私の隣の席の相澤《あいざわ》くん越しに、私は淡い色づきの桜並木を眺めてる。

「なに?」
「えっ?」
「あんた、俺のこと見てる?」
「みっ、見てないです。わた、私は相澤くんじゃなくって桜を見てるの!」

 ふーんと言って、相澤くんも窓を見た。

「ああ、確かに。見惚れるぐらいに綺麗だな」
「でしょ、でしょ? ……ねえねえ相澤くんってさ何部に入ってるの?」
「……お前、うっさいから話しかけんな」

 むっかあ!
 なによ、コイツっ!

 高校2年生になって友達とはクラスが離れちゃった。
 寂しかったから、ただ誰かとお喋りしたかっただけなのに。
 なに、この塩対応は!

 そりゃあ、仲良くもないのに私もついつい馴れ馴れしくしちゃったかもだけど。
 そんなにうざったそうにしなくたって良いじゃない?


 ……だけど、相澤くんって悔しいけど綺麗な横顔してんな〜。

 
   🌸


 学校から帰ると、私は家の小さな本屋さんでお手伝いをしてる。

 バイト代にってささやかなお小遣いをパパとママがくれる。
 自分の家のお店だから手伝うのは当たり前だって遠慮していらないって言ったけど。

 パパとママは高校生になったんだから、お洒落とか友達とのお出掛けに使いなさいって。
 中学生までは必要な時に必要な金額のお小遣いを貰っていたけど、高校生になったらパパとママが自分でやり繰りしてごらんって。

 本屋さんのお掃除とか陳列とかラッピングに本のカバー掛けの手伝いは小さい頃からしてきたけど、レジ打ちとかのお金に関わるお仕事は高校生になってからだ。

「いらっしゃいませ」

 うちはチェーン店じゃなくて町の小さな本屋さん。

 売り場は狭いのだけど、たまに掘り出し物の稀少な本があるらしく目当ての常連さんも多い。
 どこかの大学の教授さんとか、有名な作家さんとかお忍びでやって来るの。

「うち、ちっちゃい本屋さんなのにわりとお客さん多いよね?」
「居心地が良いからじゃね。俺もよく親父に連れられて来てたよ」

 ……なんと新しいバイトに、相澤くんが入ってきたんだよ。
 そりゃあもう、びっくりしました。
 学校じゃ話しかけるなっていうくせに、うちの本屋さんでは普通に話す。

「えっ? 相澤くん、うちの常連さんなの?」
「咲希《さき》が気づいてねえのも仕方ないよな。俺、……雰囲気、変えたから」

 照れながら笑った!
 ちょっ、ちょっと可愛いかも。
 しかもなぜかバイトの時は私のことを「咲希《さき》」って名前呼び。

「本が好きなんだ、俺。匂いとかビジュアルとか」
「ぷっ……、ビジュアルって」
「なっ、笑うなよな。……お前、可愛いから調子が狂うんだよ」
「えっ――?」

 相澤くん、ねえ。
 もしかして今、私を可愛いって言った?
 うそ、うそ〜!?

 聞き間違いかと思ったけど、相澤くんの顔は林檎とか茹でダコみたいに真っ赤だった。

「相澤くんってさ、長身だし、なんかさバイトのエプロンが似合うね。格好いい」
「はあっ!? 俺が格好いいとかアホ抜かすな! からかうんじゃねえ、調子のんなよな」

 でも相澤くんって学校だと無愛想で。私だけじゃなくって女子全般に塩対応だよね?

 いつかチャンスがあったら、なんでか聞いてみよう。

 うちで会う相澤くんはお年寄りや子供やお客さんにすごく親切で、笑顔も素敵なのに。

 私、相澤くんともっとお喋りしてみたい。
 もっと相澤くんを知りたい。
 仲良くなりたいな。

 うちの本屋さんのバイト、楽しいって感じてくれてると良いんだけど。
 ついでに私と一緒にいたら楽しいと思ってくれてたらなあ。
 そしたら……嬉しいです。

 店のドアが開く度に、相澤くん越しに見える桜の花びらが風に舞って……うん、すごく綺麗だ。
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