私の隣の席は塩対応な相澤くん。
「幸せ♡のいいわけ!? 塩なはずの相澤くんが溺愛宣言♡甘く攻めてくるので逃げるにかぎる」
初夏の陽射しはきらきらと輝いています。
時々爽やかな風が吹いてくる。
教室の窓の白いカーテンが揺れています。
学校の校庭の桜もすっかり葉っぱばかりになったなあ。
鮮やかな緑色が綺麗〜。
私の教室の窓から桜並木がよく見えるんだ。
私の隣の席の相澤《あいざわ》くん越しに、私が葉桜の桜並木を眺めていると、彼とバチッと視線が合う。
見つめて、視線を外さない相澤くん。
――むむっ、恥ずかしいっ。
私は恥ずかしさに耐えられずに目を逸《そ》らしてしまいます。
「なに?」
「えっ?」
「お前、俺のこと避けてる? 俺のこと見てたのに今さ、あからさまに目ぇ逸《そ》らしただろう」
「さっ、避けてないです。わっ、私は相澤くんじゃなくって葉桜を見てたの!」
「ふーん。……誤魔化せてねえからな。咲希《さき》、お前やっと俺の彼女になったと思ったら、どうしてそう逃げるんだよ」
放課後、クラス委員の仕事で学級紙に載せる『夏の意気込み宣言!』をまとめていた私と相澤くん。
先生の提案で書かされた『夏の意気込み宣言!』は、夏休みになにを頑張るか宣言するというもの。
私は夏休みになにを頑張ろうかな。
表向きは大学受験に向けて勉強に取り組むとか書いたけど……。まだ高二だし、実は頑張りたいことは人に言えないことだったりする。
相澤くんが私を見てるのを感じる。
真っ直ぐな視線が向いて来て、痛いほどに分かる。
……は、恥ずかしいんだよね。
――教室には二人っきり……。
今日は先生の集まりがあるらしく午前中授業だったけど、私と相澤くんは居残りだ。
クジ引きでなってしまったクラス委員だけど、相澤くんと二人なら楽しい。
楽しいんだけど……。
「ちょ、ちょっと相澤くん、近いよ」
「ぜんぜん近くない。隣りに大人しく座ってるだけだけど?」
相澤くんはそう言いながらも、私の机の上に肘をついて下から私の顔を覗き込んでくる。
私は慌てて下敷きを、相澤くんの顔と私の顔の間に入れた。
「ふーん。下敷きで俺をかわす気か」
「あ、あんまり見ないで。……恥ずかしいから」
「お前が可愛いのが悪い。見ちまうにきまってんだろ、好きなんだから」
ひょいっと下敷きを取られて、サッと素早くちゅってキスされちゃった!
「ちょっ……。相澤くん、教室で不意打ちでキスとか……こ、困る」
「なんで?」
「なんでって〜。恥ずかしいもんっ」
「誰もいねえけど?」
「誰もいなくても! ここ教室だよ? 誰か来て見られたらどうするの?」
はあ〜っと、ちょっとにやっとしながら相澤くんは深く息を吐いた。
「じゃあさ、咲希にキスしたくなったらどこですんだよ?」
「どこでって……」
「お前、この前『いつでもイチャイチャしちゃうようなバカップルが理想なんだあ』とか言っておいて、ぜんぜん俺に甘えてこないじゃんか」
相澤くんは私の手からシャーペンを取り上げてくるくる指で回して、不満そうにぷくっと頬を膨らませた。
ちょっ、ちょっと、イケメンのふくれっ面って可愛くて反則だなあ。
かまってあげたくなる。
放っておけない、そんな気分にさせられちゃう。
「俺は咲希に甘えてほしいんだけど?」
「だ、だっ、だって私は塩対応な相澤くんしか知らないわけで……。それに初めてのカレシだもん。甘え方なんてわっかんないよ」
「俺だってお前が初めてのカノジョだぞ。なあ? 急にちゅーしたくなんねえの? 俺に抱きつきたいとか思わないわけ?」
「そ、それは…… 」
「ふっふっふ。咲希、ちっちゃい声だけど俺にはしっかりと聴こえたぞ。じゃあ、練習な」
「れ、練習って何する……」
相澤くんが抱きしめてくる、ドキドキってする。
止まらない胸の甘いときめきと鼓動……、相澤くんがあったかい。
「咲希って、付き合いだしてから俺に冷てえよなあ」
「そそ、ソンナコトナイヨー」
「棒読みになった。自覚はあるようだなあ?」
私、相澤くんが愛情表現をしてくれるのが嬉しいけど、すごく戸惑ってるのは事実で。
相澤くん、相変わらず塩対応な時もあるけど、お付き合いを始めてからというもの、スキンシップも甘い言葉もたくさん増えた。
「俺は急にさ、無性に咲希をぎゅって抱きしめたくなるし。いつでも一緒にいたいとか思ってっけど。……お前んちの本屋のバイトでいちゃいちゃするわけにもなあ」
「……だ、だめだよ。パパもママもいる時あるし。お、お客さんだって……」
「だから、今。……俺、これでもけっこう我慢してる方なんだけど?」
「ひゃあっ」
私のおでこに相澤くんがおでこをくっつけて、彼は瞳を閉じる。
「こうしてるとお前の考えてることが分かればいいのに。……俺がちょっと寂しいの、どうしてくれんだ?」
「ご、ごめん。なんかごめん。……そのうち慣れると思う」
「ぷっ……、ははっ。俺の方こそごめん。咲希のそういう照れた顔、見たかっただけ」
「もぉ〜! どうして相澤くんは私をからかうの?」
「好きだから。好きだから、色んなあんたが見たい」
相澤くんは笑ったかと思うと、急に真剣な顔して。
甘い空気が流れまくるのが、くすぐったいような……。
「あー、もう、ずっと咲希と一緒にいてえなあ」
「今日、うち来る?」
「うんっ? バイト、なかったはずだけど」
「バイトなくても、遊びにおいでよ。うちのパパとママが相澤くんを食事に呼びたいって言ってた」
「えっ? お前、俺たちが付き合ってるって言ったの?」
「言ったけど……だめだった?」
まずかったのかな〜?
パパとママはすっごく喜んでくれてたんだけど。
「俺から言いたかった〜」
「なんだ、自分で言いたかっただけか。相澤くん、うちの両親に隠しておきたかったのかと思った」
「んなわけねえじゃん。ただ、けじめとしてだなあ……。ああ、今日、挨拶しに行く」
「挨拶って……」
「『将来を視野に入れて真剣に交際してます。娘さんを大切にします』って」
「ちょ、ちょっと! 気が早くない!?」
そうなんだ、相澤くんって真剣な気持ちで付き合ってくれてるんだ。
あらためてそう言われちゃうと、じんわり嬉しさが込み上げてくる。
私の胸がとくとく言って、熱くなる。
「相澤くん……」
「挨拶前に充電させて」
「充電?」
「俺だってお前の両親に挨拶とかほんとは緊張する。咲希を抱きしめて愛情パワーの充電させて?」
ひゃあっ! 相澤くんが大胆だ。
椅子に座る私を後ろから抱きしめてくる。
私は幸せの言い訳がしたい。
だって急に私、……幸せな気分でいっぱいなんて、良いのかな?
「神楽〜? 相澤、いる〜? 提出は先だから今日はもう帰ってもいいぞ」
そこに担任の先生の声がした。
私が慌てて相澤くんの手をほどこうとするのに、相澤くんがもっときつく抱きしめてくる。
「あ、相澤くん! 先生、来ちゃうよっ?」
「しっ……」
「ちょっ、ちょっと、相澤くんっ」
「咲希、こっち」
私はぐいっと相澤くんにひっばられて、カーテンの裏に二人で隠れてじっとしてる。
「なんだ? 帰ったのか?」
ドキドキドキ……、相澤くんが私を後ろから抱きしめてる。
こんなとこ先生に見られたらどうするの〜!?
私の心配は杞憂に終わって、先生はすぐにいなくなった。
「はあー、良かったあ。もうっ、イチャイチャは学校ではあんまりしないで」
「なんで? あーあ。今はお前の方が塩対応じゃんか」
「そ、そんなことないよ。ただ、困るもん」
「ドキドキしたろ? ……俺、お前といい雰囲気の時はさ、誰からも邪魔されたくない」
相澤くんの息が耳元にかかって、ぞくぞくする。
次に私の首元に相澤くんの唇があたる。
きゃあっ……!
そんなんされちゃうと、パニックになる。
「わ、私はこんな無駄にドキドキするの、心臓に悪いよ〜」
「ふははっ、ドキドキしてんだ。それは良かった」
「良くない!」
「なんで?」
「なんでって……」
相澤くんの手が私の顎に触れると彼の方に向かせられ、斜めからのキス! された。
すぐに離れたけど、相澤くんはカーテンをどかして、私を見つめてくる。
「俺、お前にいくらキスしても足らないとかって感じ。俺、すっげえ、咲希が好きだ」
「も、もうっ! 分かった! あ、ありがとう! とりあえず帰ろう、ねっ?」
相澤くんと私はクラス委員の仕事の片付けをササッとして、学校の昇降口を出る。
すかさず手を繋がれて、私はぽーっとなってしまう。
メロメロ? 骨抜きにされちゃったみたい。
相澤くんに好きって言われる度に、自分じゃない自分に出会う。
「改めて挨拶するんじゃ、ケーキとか持っていった方がいいか?」
「えっ、いらないよ。そんな気を遣わなくっても、お互い知らない相手じゃないんだし」
「でもカッコつかないから、やっぱ買ってく。咲希もケーキ好きだろ? 一緒に選んで。うーん、服は制服が良いのか、私服が良いのか……」
相澤くんと私、並んで校庭を抜けるとさわさわと気持ちのいい風が吹いて、桜並木の枝と葉っぱが揺れていた。
「いいわけ、聞かねえから」
「えっ?」
「もう、俺もお前もお互いに好きでいるのに。なにかと咲希はいいわけばっかして、俺から逃げるとか誤魔化すとか……」
「だって恥ずかしい……。ドキドキして変な気分になる」
「ふーん。じゃあ、俺が抱きしめたらじっとしてろ。そしたらそのうち慣れるだろ?」
「う、うん。……慣れるの?」
「知らねえよ。たぶん、慣れるんじゃねえの? そしたら咲希からも甘えてこいよ」
「なんかどんどん、ドキドキ指数が上がってる気がするんですけど?」
相澤くんが笑った。
私は隣りで歩く相澤くんを見上げるようにして眺めた。
すっごいおかしそうに笑う相澤くんの横顔がほんのり桃色に染まってる。
「ふははっ、それって咲希。お前が相当俺のこと好きになってるってことじゃねえ?」
「うそ……。そうなのかなあ」
「嘘じゃないと思うけど。もっと大好きになってくれてもいいぞ?」
そう言った相澤くんの横顔が照れて笑ってる。
私はぎゅっと繋いだ手に力をこめた。
「目指せ、ラブラブバカップルだね」
「その挑戦、受けて立つ。咲希、覚悟しろよ?」
「お、お手柔らかに……、これからよろしくお願いします」
「……俺の方こそ、よろしく。――そういや『夏の意気込み宣言!』はお前なんにした?」
「学生らしい、当たり障りのないこと書いた」
「受験の前準備とか?」
「うん、まあ……」
「本当は夏休みに何したい?」
相澤くんの瞳の奥が真剣な光が灯ってる。
私はもう誤魔化さなかった。
「相澤くんともっとラブラブになるために、……お出掛けしたいかな」
「なんだ、デートならいつでも行くけど?」
「あと、キャンプしたりしてみたい」
「おう、そんなんすぐに叶えてやるよ」
私は相澤くんの楽しそうに話すのを隣りでずっと見てた。
塩対応が当たり前の相澤くんの表情が少しずつ柔らかくなってる気がした。
私と相澤くんの二人でたくさん楽しい思い出を作っていきたい。
季節が変わっていくごとに、きっと私はもっともっと相澤くんのことを好きになるんだろうなあ。
おしまい♪
時々爽やかな風が吹いてくる。
教室の窓の白いカーテンが揺れています。
学校の校庭の桜もすっかり葉っぱばかりになったなあ。
鮮やかな緑色が綺麗〜。
私の教室の窓から桜並木がよく見えるんだ。
私の隣の席の相澤《あいざわ》くん越しに、私が葉桜の桜並木を眺めていると、彼とバチッと視線が合う。
見つめて、視線を外さない相澤くん。
――むむっ、恥ずかしいっ。
私は恥ずかしさに耐えられずに目を逸《そ》らしてしまいます。
「なに?」
「えっ?」
「お前、俺のこと避けてる? 俺のこと見てたのに今さ、あからさまに目ぇ逸《そ》らしただろう」
「さっ、避けてないです。わっ、私は相澤くんじゃなくって葉桜を見てたの!」
「ふーん。……誤魔化せてねえからな。咲希《さき》、お前やっと俺の彼女になったと思ったら、どうしてそう逃げるんだよ」
放課後、クラス委員の仕事で学級紙に載せる『夏の意気込み宣言!』をまとめていた私と相澤くん。
先生の提案で書かされた『夏の意気込み宣言!』は、夏休みになにを頑張るか宣言するというもの。
私は夏休みになにを頑張ろうかな。
表向きは大学受験に向けて勉強に取り組むとか書いたけど……。まだ高二だし、実は頑張りたいことは人に言えないことだったりする。
相澤くんが私を見てるのを感じる。
真っ直ぐな視線が向いて来て、痛いほどに分かる。
……は、恥ずかしいんだよね。
――教室には二人っきり……。
今日は先生の集まりがあるらしく午前中授業だったけど、私と相澤くんは居残りだ。
クジ引きでなってしまったクラス委員だけど、相澤くんと二人なら楽しい。
楽しいんだけど……。
「ちょ、ちょっと相澤くん、近いよ」
「ぜんぜん近くない。隣りに大人しく座ってるだけだけど?」
相澤くんはそう言いながらも、私の机の上に肘をついて下から私の顔を覗き込んでくる。
私は慌てて下敷きを、相澤くんの顔と私の顔の間に入れた。
「ふーん。下敷きで俺をかわす気か」
「あ、あんまり見ないで。……恥ずかしいから」
「お前が可愛いのが悪い。見ちまうにきまってんだろ、好きなんだから」
ひょいっと下敷きを取られて、サッと素早くちゅってキスされちゃった!
「ちょっ……。相澤くん、教室で不意打ちでキスとか……こ、困る」
「なんで?」
「なんでって〜。恥ずかしいもんっ」
「誰もいねえけど?」
「誰もいなくても! ここ教室だよ? 誰か来て見られたらどうするの?」
はあ〜っと、ちょっとにやっとしながら相澤くんは深く息を吐いた。
「じゃあさ、咲希にキスしたくなったらどこですんだよ?」
「どこでって……」
「お前、この前『いつでもイチャイチャしちゃうようなバカップルが理想なんだあ』とか言っておいて、ぜんぜん俺に甘えてこないじゃんか」
相澤くんは私の手からシャーペンを取り上げてくるくる指で回して、不満そうにぷくっと頬を膨らませた。
ちょっ、ちょっと、イケメンのふくれっ面って可愛くて反則だなあ。
かまってあげたくなる。
放っておけない、そんな気分にさせられちゃう。
「俺は咲希に甘えてほしいんだけど?」
「だ、だっ、だって私は塩対応な相澤くんしか知らないわけで……。それに初めてのカレシだもん。甘え方なんてわっかんないよ」
「俺だってお前が初めてのカノジョだぞ。なあ? 急にちゅーしたくなんねえの? 俺に抱きつきたいとか思わないわけ?」
「そ、それは…… 」
「ふっふっふ。咲希、ちっちゃい声だけど俺にはしっかりと聴こえたぞ。じゃあ、練習な」
「れ、練習って何する……」
相澤くんが抱きしめてくる、ドキドキってする。
止まらない胸の甘いときめきと鼓動……、相澤くんがあったかい。
「咲希って、付き合いだしてから俺に冷てえよなあ」
「そそ、ソンナコトナイヨー」
「棒読みになった。自覚はあるようだなあ?」
私、相澤くんが愛情表現をしてくれるのが嬉しいけど、すごく戸惑ってるのは事実で。
相澤くん、相変わらず塩対応な時もあるけど、お付き合いを始めてからというもの、スキンシップも甘い言葉もたくさん増えた。
「俺は急にさ、無性に咲希をぎゅって抱きしめたくなるし。いつでも一緒にいたいとか思ってっけど。……お前んちの本屋のバイトでいちゃいちゃするわけにもなあ」
「……だ、だめだよ。パパもママもいる時あるし。お、お客さんだって……」
「だから、今。……俺、これでもけっこう我慢してる方なんだけど?」
「ひゃあっ」
私のおでこに相澤くんがおでこをくっつけて、彼は瞳を閉じる。
「こうしてるとお前の考えてることが分かればいいのに。……俺がちょっと寂しいの、どうしてくれんだ?」
「ご、ごめん。なんかごめん。……そのうち慣れると思う」
「ぷっ……、ははっ。俺の方こそごめん。咲希のそういう照れた顔、見たかっただけ」
「もぉ〜! どうして相澤くんは私をからかうの?」
「好きだから。好きだから、色んなあんたが見たい」
相澤くんは笑ったかと思うと、急に真剣な顔して。
甘い空気が流れまくるのが、くすぐったいような……。
「あー、もう、ずっと咲希と一緒にいてえなあ」
「今日、うち来る?」
「うんっ? バイト、なかったはずだけど」
「バイトなくても、遊びにおいでよ。うちのパパとママが相澤くんを食事に呼びたいって言ってた」
「えっ? お前、俺たちが付き合ってるって言ったの?」
「言ったけど……だめだった?」
まずかったのかな〜?
パパとママはすっごく喜んでくれてたんだけど。
「俺から言いたかった〜」
「なんだ、自分で言いたかっただけか。相澤くん、うちの両親に隠しておきたかったのかと思った」
「んなわけねえじゃん。ただ、けじめとしてだなあ……。ああ、今日、挨拶しに行く」
「挨拶って……」
「『将来を視野に入れて真剣に交際してます。娘さんを大切にします』って」
「ちょ、ちょっと! 気が早くない!?」
そうなんだ、相澤くんって真剣な気持ちで付き合ってくれてるんだ。
あらためてそう言われちゃうと、じんわり嬉しさが込み上げてくる。
私の胸がとくとく言って、熱くなる。
「相澤くん……」
「挨拶前に充電させて」
「充電?」
「俺だってお前の両親に挨拶とかほんとは緊張する。咲希を抱きしめて愛情パワーの充電させて?」
ひゃあっ! 相澤くんが大胆だ。
椅子に座る私を後ろから抱きしめてくる。
私は幸せの言い訳がしたい。
だって急に私、……幸せな気分でいっぱいなんて、良いのかな?
「神楽〜? 相澤、いる〜? 提出は先だから今日はもう帰ってもいいぞ」
そこに担任の先生の声がした。
私が慌てて相澤くんの手をほどこうとするのに、相澤くんがもっときつく抱きしめてくる。
「あ、相澤くん! 先生、来ちゃうよっ?」
「しっ……」
「ちょっ、ちょっと、相澤くんっ」
「咲希、こっち」
私はぐいっと相澤くんにひっばられて、カーテンの裏に二人で隠れてじっとしてる。
「なんだ? 帰ったのか?」
ドキドキドキ……、相澤くんが私を後ろから抱きしめてる。
こんなとこ先生に見られたらどうするの〜!?
私の心配は杞憂に終わって、先生はすぐにいなくなった。
「はあー、良かったあ。もうっ、イチャイチャは学校ではあんまりしないで」
「なんで? あーあ。今はお前の方が塩対応じゃんか」
「そ、そんなことないよ。ただ、困るもん」
「ドキドキしたろ? ……俺、お前といい雰囲気の時はさ、誰からも邪魔されたくない」
相澤くんの息が耳元にかかって、ぞくぞくする。
次に私の首元に相澤くんの唇があたる。
きゃあっ……!
そんなんされちゃうと、パニックになる。
「わ、私はこんな無駄にドキドキするの、心臓に悪いよ〜」
「ふははっ、ドキドキしてんだ。それは良かった」
「良くない!」
「なんで?」
「なんでって……」
相澤くんの手が私の顎に触れると彼の方に向かせられ、斜めからのキス! された。
すぐに離れたけど、相澤くんはカーテンをどかして、私を見つめてくる。
「俺、お前にいくらキスしても足らないとかって感じ。俺、すっげえ、咲希が好きだ」
「も、もうっ! 分かった! あ、ありがとう! とりあえず帰ろう、ねっ?」
相澤くんと私はクラス委員の仕事の片付けをササッとして、学校の昇降口を出る。
すかさず手を繋がれて、私はぽーっとなってしまう。
メロメロ? 骨抜きにされちゃったみたい。
相澤くんに好きって言われる度に、自分じゃない自分に出会う。
「改めて挨拶するんじゃ、ケーキとか持っていった方がいいか?」
「えっ、いらないよ。そんな気を遣わなくっても、お互い知らない相手じゃないんだし」
「でもカッコつかないから、やっぱ買ってく。咲希もケーキ好きだろ? 一緒に選んで。うーん、服は制服が良いのか、私服が良いのか……」
相澤くんと私、並んで校庭を抜けるとさわさわと気持ちのいい風が吹いて、桜並木の枝と葉っぱが揺れていた。
「いいわけ、聞かねえから」
「えっ?」
「もう、俺もお前もお互いに好きでいるのに。なにかと咲希はいいわけばっかして、俺から逃げるとか誤魔化すとか……」
「だって恥ずかしい……。ドキドキして変な気分になる」
「ふーん。じゃあ、俺が抱きしめたらじっとしてろ。そしたらそのうち慣れるだろ?」
「う、うん。……慣れるの?」
「知らねえよ。たぶん、慣れるんじゃねえの? そしたら咲希からも甘えてこいよ」
「なんかどんどん、ドキドキ指数が上がってる気がするんですけど?」
相澤くんが笑った。
私は隣りで歩く相澤くんを見上げるようにして眺めた。
すっごいおかしそうに笑う相澤くんの横顔がほんのり桃色に染まってる。
「ふははっ、それって咲希。お前が相当俺のこと好きになってるってことじゃねえ?」
「うそ……。そうなのかなあ」
「嘘じゃないと思うけど。もっと大好きになってくれてもいいぞ?」
そう言った相澤くんの横顔が照れて笑ってる。
私はぎゅっと繋いだ手に力をこめた。
「目指せ、ラブラブバカップルだね」
「その挑戦、受けて立つ。咲希、覚悟しろよ?」
「お、お手柔らかに……、これからよろしくお願いします」
「……俺の方こそ、よろしく。――そういや『夏の意気込み宣言!』はお前なんにした?」
「学生らしい、当たり障りのないこと書いた」
「受験の前準備とか?」
「うん、まあ……」
「本当は夏休みに何したい?」
相澤くんの瞳の奥が真剣な光が灯ってる。
私はもう誤魔化さなかった。
「相澤くんともっとラブラブになるために、……お出掛けしたいかな」
「なんだ、デートならいつでも行くけど?」
「あと、キャンプしたりしてみたい」
「おう、そんなんすぐに叶えてやるよ」
私は相澤くんの楽しそうに話すのを隣りでずっと見てた。
塩対応が当たり前の相澤くんの表情が少しずつ柔らかくなってる気がした。
私と相澤くんの二人でたくさん楽しい思い出を作っていきたい。
季節が変わっていくごとに、きっと私はもっともっと相澤くんのことを好きになるんだろうなあ。
おしまい♪