【一気読み改訂版】黒煙のレクイエム
第30話
あの事件が原因で引きこもりになったあいつは、さらにネクラな表情になった。
義兄夫婦《おにいふうふ》は、完全にお手上げになった。
その上にまた悲報が入った。
義兄《おにい》が勤務している製造工場《こうじょう》は、会社側が予定していた削減人数がさらに増えて2500人になった。
座して死を待つくらいなら今のうちに工場を去ろうと訣意《けつい》して早めに工場をやめた従業員さんたちが出始めた。
義兄《おにい》も早めに工場を去ろうと思ったが、実行に移すことができなかった。
あいつが引きこもりになっていることや嫂《おねえ》がわがままをこねていたことが原因で工場をやめることができない…
義兄《おにい》は、精神的に追い詰められたようだ。
７月24日の昼ごろであった。
ところ変わって、工場の休憩室にて…
義兄《おにい》は、ひとりぼっちでお弁当を食べていた。
この時、工場長の竹村さんが休憩室にやって来た。
義兄《おにい》が困っているのでなんとかしたい…
竹村さんは、あいつの実家の近くの家で暮らしていたのでなにかと気にかけていた。
あいつが年金機構をやめたと聞いたので、ひどく心配していた。
竹村さんは、親会社が打ち出したリストラのことについて義兄《おにい》に話した。
「てるよしさん…てるよしさんは工場をやめた後はどうするのかな…８月に入ったら、親会社からリストラの対象になる2500人の従業員さんたちに解雇予告の書面が来るのだよ…この最近だけど…辞表を書いて上の人に叩きつけたあと、やめて行く従業員さんたちが出始めたよ。」
「オレだって、工場やめたいよ…だけど…妻は『外に働きに行くことができない…』と言うてわがままをこねている…あきよしはあきよしで引きこもりになって『シューカツはしないからなバーカ!!』と言うて閉じこもった…自分が使っていたパソコンがウイルスに感染したあと、個人情報が大量に流出した…多くの年金受給者《みなさま》に大メイワクをかけておいて…ひとことも謝罪しない…だからこっちは思い切り怒っているのですよ!!」
「あきよしさんを年金機構に就職させたことは、悪かったと思っているよ…あきよしさんがパソコンのワードやエクセルの資格などを保有しているからちょうどいいと思って、年金機構はいかがですか…と言うたのだよ…」
「どうしてコームインしかなかったのですか!?」
「どうしてって…民間の事業所よりもコームインの方がお給料が安定していると思ってすすめたのだよ…」
「こんなことになるのだったら…あきよしを海外留学させるべきだった!!どうしてあきよしの海外留学を止めたのですか!?」
「だから悪かったよ…」
「それが人に対するあやまる態度か!?」
竹村さんは、ものすごく困った声で義兄《おにい》に言うた。
「だから、いじわるで海外留学を止めたのじゃないのだよ〜…海外の大学を卒業したからさらに条件のいい事業所に入れる保証はないと思っていたのだよぅ…」
「決めつけを言うなよ!!」
「(よりあつかましい声で)てるよしさんね!!それだったらうちのおとなりで暮らしているＹ内さんの息子さんの話をしようか!?Ｙ内さんの息子さんは、大阪の工業系の大学を卒業した後、神戸の電子ビジネス専門学校に進学した…それでも就職先が見つからんかった…この時、ご夫婦がものすごく困り果てた様子でうちに助けを求めたのだよ…Ｙ内さんの息子さんは、電子ビジネスの仕事をあきらめて児島のデニム製造工場に再就職した…Ｙ内さんの息子さんは工場の作業員で与えられた仕事をすなおにこなしているのだぞ!!」
「だからあきよしの海外留学を止めたのか!?」
「止めなければさらにあきよしさんはダメになっていたのだよ!!」
「Ｙ内の伜《ボケ》の話をするな!!」
「てるよしさん…」
「あんたのせいで、オレが東京の大学へ進学することを断念した…それからメッシホウコウでずっとガマンした…がまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんして…何もかもをガマンした!!」
「分かってるよ…てるよしさんが工場のために23年間メッシホウコウでガマンしたことについては理解しているよ…」
「だから、どうしてほしいのかはっきり言えよ!!」
「どうしてほしいって…てるよしさんに工場《ここ》にいてほしいのだよ…若い従業員さんたちがたよりないからてるよしさんに工場《ここ》にいてほしいのだよ…若い従業員さんたちに仕事を教えることができるのは、てるよしさんしかいないのだよ。」
「あんたはいてほしいと言うても、親会社はそうは思ってない!!」
「親会社には、クビにしないでくれと頼んでおくから…」
「はぐいたらしいんだよ!!」
思い切りブチ切れた義兄《おにい》は、食べかけのお弁当を竹村さんにぶつけた。
その後、何も言わずに休憩室から出て行った。
この時、義兄《おにい》は工場…いいえ、親会社に対してよりし烈な不満をくすぶらせていた。
メッシホウコウで23年間通して来たけど、バカらしくなった…
そうつぶやいた義兄《おにい》は、きわめて危険な状態におちいった。
その日の夜９時過ぎであった。
ところ変わって、あいつの家にて…
義兄《おにい》は、リストラの知らせを聞いた日からひどくいらついていた。
義兄《おにい》は、毎日のように嫂《おねえ》から『これからどうするのよ〜』と言われるようになった。
そうしたことが原因で、ブチ切れの大ゲンカを起こした。
「あなた…この先どうして行くのよ!!あなたが工場をやめたら…アタシはどうしたらいいのよ!?」
「親会社が工場をやめろと言うたらしたがうしかないよ!!あの工場は…オレが働きたいと思う職場ではなかった!!」
「それ本当なのね!!それじゃあ、アタシはどうなるのよ!?」
「オドレな!!いつまでもわがままばかりを言わないで、パートを探せ!!」
「パートを探せって…アタシに働けと言いたいの!?」
「オドレがそんな弱い気持ちでいるからオレはイライラしているのだよ!!オドレはひとり娘で本籍地《ほんけ》のたった一人しかいない女のコの孫だった!!…目の中に入れても痛くないヒトツブ種の孫娘《まご》だった!!…大事にされ過ぎて育ったからオドレはダメになった!!」
義兄《おにい》は、テーブルを両手でにぎりこぶしを作ってドスーンと叩いた。
その後、背中をプイと向けて外へ出た。
ところ変わって、ＪＲ宇野駅の裏手にある酒場街にある居酒屋さんにて…
店は、義兄《おにい》の行きつけの店であった。
義兄《おにい》は、カウンターの席で濃度がどぎついジンをストレートでのんでいた。
ユーセンのスピーカーから、レーモンド松屋さんの歌で『安芸灘の風』が流れていた。
カウンター越しにいるおかみさんは、あつかましい声で義兄《おにい》に言うた。
「あんたーね!!もうええかげんにしなさいよ!!そんなどぎついジンをストレートでガバガバのんだら、からだに悪いわよ!!それよりもあんたー!!今何杯目か計算しなさいよ!!」
「ほっといてくれよ…オレは…もうだめなのだよ…のまずにいられるか…バーロ!!」
「あんたーはなさけないわねえ…あんたーを見ていると亡くなったオヤジにそっくりね!!いらん部分だけはオヤジにそっくりだから、なさけないわね!!」
義兄《おにい》は、グラスに残っているジンをのみほしたあと『おかわり!!』と言うて、おかわりを頼んだ。
「あんたーね!!もうやめておきなさいよ!!」
「るせーなァ、オレは酒がねえと生きて行けねーのだよ!!おかわりをつくれよ!!」
「しょーがないわね!!」
おかみさんは、ブツブツと言いながらおかわりを作ったあと義兄《おにい》に差し出した。
「あんたーね!!もうこの一杯でやめて家に帰りなさいよ!!」
「分かったよ…」
「ほんとうにわかっているのかしらね!!」
「分かってるよバーロー!!」
このあと、義兄《おにい》は何杯お酒をのんだよくおぼえていなかった。
あの様子だと、たぶん100杯は軽く超《こ》していたと思う。
これで義兄《おにい》は、完全にアウトになるみたいね…
義兄夫婦《おにいふうふ》は、完全にお手上げになった。
その上にまた悲報が入った。
義兄《おにい》が勤務している製造工場《こうじょう》は、会社側が予定していた削減人数がさらに増えて2500人になった。
座して死を待つくらいなら今のうちに工場を去ろうと訣意《けつい》して早めに工場をやめた従業員さんたちが出始めた。
義兄《おにい》も早めに工場を去ろうと思ったが、実行に移すことができなかった。
あいつが引きこもりになっていることや嫂《おねえ》がわがままをこねていたことが原因で工場をやめることができない…
義兄《おにい》は、精神的に追い詰められたようだ。
７月24日の昼ごろであった。
ところ変わって、工場の休憩室にて…
義兄《おにい》は、ひとりぼっちでお弁当を食べていた。
この時、工場長の竹村さんが休憩室にやって来た。
義兄《おにい》が困っているのでなんとかしたい…
竹村さんは、あいつの実家の近くの家で暮らしていたのでなにかと気にかけていた。
あいつが年金機構をやめたと聞いたので、ひどく心配していた。
竹村さんは、親会社が打ち出したリストラのことについて義兄《おにい》に話した。
「てるよしさん…てるよしさんは工場をやめた後はどうするのかな…８月に入ったら、親会社からリストラの対象になる2500人の従業員さんたちに解雇予告の書面が来るのだよ…この最近だけど…辞表を書いて上の人に叩きつけたあと、やめて行く従業員さんたちが出始めたよ。」
「オレだって、工場やめたいよ…だけど…妻は『外に働きに行くことができない…』と言うてわがままをこねている…あきよしはあきよしで引きこもりになって『シューカツはしないからなバーカ!!』と言うて閉じこもった…自分が使っていたパソコンがウイルスに感染したあと、個人情報が大量に流出した…多くの年金受給者《みなさま》に大メイワクをかけておいて…ひとことも謝罪しない…だからこっちは思い切り怒っているのですよ!!」
「あきよしさんを年金機構に就職させたことは、悪かったと思っているよ…あきよしさんがパソコンのワードやエクセルの資格などを保有しているからちょうどいいと思って、年金機構はいかがですか…と言うたのだよ…」
「どうしてコームインしかなかったのですか!?」
「どうしてって…民間の事業所よりもコームインの方がお給料が安定していると思ってすすめたのだよ…」
「こんなことになるのだったら…あきよしを海外留学させるべきだった!!どうしてあきよしの海外留学を止めたのですか!?」
「だから悪かったよ…」
「それが人に対するあやまる態度か!?」
竹村さんは、ものすごく困った声で義兄《おにい》に言うた。
「だから、いじわるで海外留学を止めたのじゃないのだよ〜…海外の大学を卒業したからさらに条件のいい事業所に入れる保証はないと思っていたのだよぅ…」
「決めつけを言うなよ!!」
「(よりあつかましい声で)てるよしさんね!!それだったらうちのおとなりで暮らしているＹ内さんの息子さんの話をしようか!?Ｙ内さんの息子さんは、大阪の工業系の大学を卒業した後、神戸の電子ビジネス専門学校に進学した…それでも就職先が見つからんかった…この時、ご夫婦がものすごく困り果てた様子でうちに助けを求めたのだよ…Ｙ内さんの息子さんは、電子ビジネスの仕事をあきらめて児島のデニム製造工場に再就職した…Ｙ内さんの息子さんは工場の作業員で与えられた仕事をすなおにこなしているのだぞ!!」
「だからあきよしの海外留学を止めたのか!?」
「止めなければさらにあきよしさんはダメになっていたのだよ!!」
「Ｙ内の伜《ボケ》の話をするな!!」
「てるよしさん…」
「あんたのせいで、オレが東京の大学へ進学することを断念した…それからメッシホウコウでずっとガマンした…がまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんしてがまんして…何もかもをガマンした!!」
「分かってるよ…てるよしさんが工場のために23年間メッシホウコウでガマンしたことについては理解しているよ…」
「だから、どうしてほしいのかはっきり言えよ!!」
「どうしてほしいって…てるよしさんに工場《ここ》にいてほしいのだよ…若い従業員さんたちがたよりないからてるよしさんに工場《ここ》にいてほしいのだよ…若い従業員さんたちに仕事を教えることができるのは、てるよしさんしかいないのだよ。」
「あんたはいてほしいと言うても、親会社はそうは思ってない!!」
「親会社には、クビにしないでくれと頼んでおくから…」
「はぐいたらしいんだよ!!」
思い切りブチ切れた義兄《おにい》は、食べかけのお弁当を竹村さんにぶつけた。
その後、何も言わずに休憩室から出て行った。
この時、義兄《おにい》は工場…いいえ、親会社に対してよりし烈な不満をくすぶらせていた。
メッシホウコウで23年間通して来たけど、バカらしくなった…
そうつぶやいた義兄《おにい》は、きわめて危険な状態におちいった。
その日の夜９時過ぎであった。
ところ変わって、あいつの家にて…
義兄《おにい》は、リストラの知らせを聞いた日からひどくいらついていた。
義兄《おにい》は、毎日のように嫂《おねえ》から『これからどうするのよ〜』と言われるようになった。
そうしたことが原因で、ブチ切れの大ゲンカを起こした。
「あなた…この先どうして行くのよ!!あなたが工場をやめたら…アタシはどうしたらいいのよ!?」
「親会社が工場をやめろと言うたらしたがうしかないよ!!あの工場は…オレが働きたいと思う職場ではなかった!!」
「それ本当なのね!!それじゃあ、アタシはどうなるのよ!?」
「オドレな!!いつまでもわがままばかりを言わないで、パートを探せ!!」
「パートを探せって…アタシに働けと言いたいの!?」
「オドレがそんな弱い気持ちでいるからオレはイライラしているのだよ!!オドレはひとり娘で本籍地《ほんけ》のたった一人しかいない女のコの孫だった!!…目の中に入れても痛くないヒトツブ種の孫娘《まご》だった!!…大事にされ過ぎて育ったからオドレはダメになった!!」
義兄《おにい》は、テーブルを両手でにぎりこぶしを作ってドスーンと叩いた。
その後、背中をプイと向けて外へ出た。
ところ変わって、ＪＲ宇野駅の裏手にある酒場街にある居酒屋さんにて…
店は、義兄《おにい》の行きつけの店であった。
義兄《おにい》は、カウンターの席で濃度がどぎついジンをストレートでのんでいた。
ユーセンのスピーカーから、レーモンド松屋さんの歌で『安芸灘の風』が流れていた。
カウンター越しにいるおかみさんは、あつかましい声で義兄《おにい》に言うた。
「あんたーね!!もうええかげんにしなさいよ!!そんなどぎついジンをストレートでガバガバのんだら、からだに悪いわよ!!それよりもあんたー!!今何杯目か計算しなさいよ!!」
「ほっといてくれよ…オレは…もうだめなのだよ…のまずにいられるか…バーロ!!」
「あんたーはなさけないわねえ…あんたーを見ていると亡くなったオヤジにそっくりね!!いらん部分だけはオヤジにそっくりだから、なさけないわね!!」
義兄《おにい》は、グラスに残っているジンをのみほしたあと『おかわり!!』と言うて、おかわりを頼んだ。
「あんたーね!!もうやめておきなさいよ!!」
「るせーなァ、オレは酒がねえと生きて行けねーのだよ!!おかわりをつくれよ!!」
「しょーがないわね!!」
おかみさんは、ブツブツと言いながらおかわりを作ったあと義兄《おにい》に差し出した。
「あんたーね!!もうこの一杯でやめて家に帰りなさいよ!!」
「分かったよ…」
「ほんとうにわかっているのかしらね!!」
「分かってるよバーロー!!」
このあと、義兄《おにい》は何杯お酒をのんだよくおぼえていなかった。
あの様子だと、たぶん100杯は軽く超《こ》していたと思う。
これで義兄《おにい》は、完全にアウトになるみたいね…
