【一気読み改訂版】黒煙のレクイエム
第33話
話は、事件の翌々日の午前中であった。

あいつの家に、あいつの両親と姉と弟たちがやって来た。

義兄《おにい》が工場の従業員さんを殺した事件と嫂《おねえ》をレイプした上に大金をドロボーした事件とあいつが年金機構に大規模な被害を与えた事件が原因で、家族全員がヒヘイした。

家族たちは、嫂《おねえ》とアタシの今後のショグウについて話し合った。

嫂《おねえ》は、伊保田《いほだ》の実家へ帰すことにした。

アタシは、東日本大震災《さきのだいしんさい》の時に発生した巨大津波で実父と義母をなくした上に、親類縁者たちから見放されていたので、帰る場所がない…

だから、残っているきょうだいたちの中でどなたかひとりがアタシと再婚してくれとあいつの母親が求めた。

あいつの姉《おねえ》は、母親が言うた言葉に思い切りブチ切れた。

「ますますはぐいたらしいわね!!もうガマンできないわよ!!おとーさん!!あんたもなんとか言いなさいよ!!てるよしとあきよしが過去に暴力ざたを起こしたと言うことが分かっているのに、なんで結婚させたのよ!!」
「お願いだからやめて…おとーさんの夢は、たくさんの孫がたちに囲まれて余生を過ごすことが夢なのよ…てるよしの嫁さんは実家へ帰ったから、こずえさんに家にいてほしいのよ…うちは、あきよしに代わってこずえさんを愛してほしいと、まさよし(次男・36歳)にお願いしているのよ!!」
「ふざけるな!!」
「まさよし…どうしてそんなに怒るのよ!?」
「怒りたくもなるわ!!せっかくカノジョと結婚が決まったのにオドレが挙式披露宴を止めて別れろと強要したから、オレはソートー怒っとんや!!」
「悪かったわよ…」
「オレは、あんなど汚いど女と結婚しないからな!!」
「分かったわよ…それじゃあ…たかよし(四男・30歳)…たかよしがあきよしに代わってこずえさんを愛してあげて…」
「イヤや!!拒否する!!」
「なんで拒否するのよ?」
「オレは、非正規雇用で低賃金でいつクビになるのか分からないんだよ!!激安のお給料でどうやって嫁さんを養うんぞ!!」
「気持ちは分かるけれど、今は非常事態におちいっているのよ!!」
「ふざけるな!!激安のお給料で嫁さんを養う方法なんかないんだよ!!」
「それだったら、おとーさんとおかーさんが近所にお願いに回って、足りない分を借りに行くから…」
「はぐいたらしいだよ!!経済的に自立できない男は、結婚なんかできん!!オレは拒否するからなバーカ!!」
「困ったわね…それだったら、みつよしはどうするのよ~」
「みつよし(20歳・末っ子)はまだ大学生だから無理だよ…それに、みつよしは…着ているTシャツに描かれているメイドさんと結婚するといよるけんダメだよ!!」

みつよしは、なまけた声で言うた。

「別にいいじゃん!!Tシャツに書かれている嫁(ゲームのキャラクターのメイドさん)と結婚するんや…オドレらがどう言おうとオレの自由だよ…バーカ〜」

みつよしから『バーカ』と言われた父親は、泣きそうな声で『困る…』と言うた。

それを聞いた姉は、父親の顔をよりし烈な怒りを込めて平手打ちでたたいた。

(パチーン!!)

つづいて、たかよしが右足で父親をけとばした。

(ドカッ!!)

続いて、まさよしが父親をグーで腕のつけねをガツーンとこぶしで殴った。

(ガーン!!)

「オドレ!!アホンダラ!!」
「表へ出ろ!!」
「悪かったよ…ワシが悪かったよ…こらえてくれぇ~」
「それが人に対してあやまる態度か!!」
「カノジョと別れたのはオドレのせいだ!!」
「オドレのせいで給料が上がんねえんだよ!!」
「てるよしとあきよしがDV魔になった原因は、全部オドレだ!!」
「底なし魔!!」
「トバク魔!!」
「暴行魔《レイプま》!!」
「ぶっ殺してやる!!」

(ドカドカバキバキ!!ドカドカバキバキ!!)

怒りが噴出したまさよしとたかよしは、父親に対してよりし烈な暴行を加えた。

みつよしは、ショルダーバッグの中からゲームのメイドさんのイラストのセル画を出したあと、『嫁』と言いながらほおずりしていた。

母親は、しくしくと泣きまくった。

思い切りブチ切れた嫂《おねえ》は、あいつの母親に対して手当たり次第にものを投げつけたあと家中を暴れまわった。

家のキンリンは、きわめて危険な状況下におちいった。

さて、その頃であった。

ところ変わって、岡山市南区の国道30号線の倉敷川《くらしきがわ》のうえにある大きな橋の下にて…

アタシはバイト休みを利用して、少し遠出をした。

その時であった。

アタシは、橋の下にある敷地内で大きめの花束をお供えしていた女性を見た。

アタシは、女性に声をかけた。

「あのー。」
「はい?」
「ああ…大きめの花束をお供えしていたのを見て、ちょっと気になったのでおたずねしますが…」
「うちは、事件で亡くなった女のコのお弔いをしていたのよ。」
「お弔い…」
「あんたしらんかったん?今から24年前に、ここでレイプ殺人事件が発生したのよ。」
「レイプ殺人事件…」

アタシは、女性から24年前に玉野市に信金の職員が集団レイプされたあと殺された事件が発生したことを聞いた。

花束をお供えした女性は、ひと間隔あけてからアタシに事件のいきさつを話した。

「事件が発生したのは24年前の今日の夜9時前だったかしら…亡くなった女のコは、あの日…19歳になったばかりだったのよ…職場からまっすぐ帰宅しようとしていた時だったわ…派手な色に染めていたミニバンに乗っていた男のグループ7人に連れ去られた…その後、ここで殺されたのよ…亡くなった女のコは…泣き叫びながら恋人の名前を呼んでいた…女のコは…女のコは、殺されたあと置き去りにされた…それから10日後に、橋の上でバイクがミニバンが衝突事故した事故が発生した…バイクに乗っていた男性が死亡した…その時に、乗っていた男のグループ7人が逮捕された…グループの中に、当時17歳の少年がまざっていたのよ…少年は、玉で暮らしているK崎の家の長男…てるよしよ。」
「義兄《おにい》…ううん、てるよしが24年前のレイプ殺人事件に関わっていた…と言うことですか?」
「そうよ…てるよしは、高校卒業に向けて大切な時期に事件が原因で無期限キンシンでリューネンしたのよ…」
「無期限キンシンでリューネン…」
「おまけに…犯行に使われたミニバンがトーナンシャだったので、なお状況が悪くなった。」
「えっ、そんな…」
「てるよしは…玉野市内《しない》の高校をやめると両親に言うて家じゅうを暴れまわった…言うた言うてはぶてた(怒った)…ご両親は、仕方がないから別の受け入れ先の高校を探したのよ…その後、灘崎《なださき》の特別支援学校の総合産業科に再入学した…もちろん、前の高校の単位は全部パーになったわよ。」
「なんでそんなもったいないことしたのですか?」
「本人が卒業証書いらんと言うたからパーになったのよ…それに、てるよしには、軽度の知的障害があったのよ。」
「それで、灘崎《なださき》の特別支援学校に再入学したのね。」
「そう言うことよ…それ以上のことはノーコメントよ!!」

女性はアタシに怒った声で言うたあと、ふくれっ面の表情で立ち去った。

それ以上のことはノーコメントよって…

一体どう言うことかしら…

でも…

あまり深入りしない方が…

いいみたいね…

だけど…

気になるわ…

すごく気になるわ…

どうすればいいの?
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