【一気読み改訂版】黒煙のレクイエム
最終回
S木さんが亡くなった翌日から、職場の空気の淀みは一層高まった。
S木さんの婚約者の女性は、休職願いを職場に出した後、関東北部の山沿いの地域にある実家に帰った。
そしてあいつも、職場に居場所をなくした。
2033年7月22日のことであった。
ところ変わって、工場長室にて…
あいつと工場長さんはこんな会話をしていた。
「はるよしさん!!S木さんが亡くなってから10日が経過した…その間に4人の従業員さんがやめたのだよ!!どうしてだと思う!?」
「知らねーよ…」
「キサマ!!S木さんは、うちの工場の主任だよ主任!!主任と言うことは、従業員さんたちにお仕事を教えたり現場をまとめる役割があるのだぞ!!」
「それがどーかしたのかよ!?」
「工場の主任がいなくなったらな!!工場は機能しなくなるのだぞ!!」
「知らねえよバカ!!オドレがS木ばかりをえこひいきばかりしていたからS木が殺されたのだよ!!」
「えこひいき…ワシがいつS木さんにえこひいきをしたと言うのだ!?」
「あんたよぉ、S木のバカとどういう関係があるのだよ…」
「キサマはS木さんがどんなつらい思いをして生きてきたのか分からないのか!?」
「S木はむかつくヤローだったのだよ!!主任づらして従業員さんたちを痛め付けるだけ痛めつけたのだから、天罰を喰らったのだよ!!」
「S木さんは、22年前の大震災の時に実家を津波で流された上に両親ときょうだい4人が行方不明になってしまったのだよ!!その時S木さんは中学3年だったのだよ!!高校進学を断念して、おじさん夫婦が経営している秋保《あきう》の温泉旅館で下足番をしていた!!高校に行きたい…高校に行きたいと…毎日毎日泣きながら旅館の下足番の仕事ばかりを繰り返した…ワシはその時、家族でそこの旅館に宿泊していた…高校に行きたかったのに下足番を選んだS木さんのことを思って、『ワシが話をつけておくから…うちの工場へ再就職をしろ…通信制の高校に行けるように手はずを整えるから…』…と言うた…その後、うちの工場で働きながら通信制高校で学んでいたのだぞ!!高校卒業後は大学に進学をせずにうちの工場で何もかもをがまんして…安いお給料に文句ひとつ言わずに働いてきたのだぞ!!キサマはそんなS木さんをバカ呼ばわりしたのだからぶっ殺してやる!!」
「殺せよ!!殺してやると言うのであれば、ひと思いに殺せよバカ工場長!!バカ工場長にバカ主任…バカばかりでやって行けねーよ!!バカS木をヨウゴした分もふくめて呪い殺すからな!!」
「よくわかった!!今日限りでクビや!!出て行け!!」
あいつは、工場長さんのデスクを右足でけとばしたあと、その場から立ち去った。
その頃であった。
アタシは、一度あいつの家に行った。
家に残っているアタシの着替えとメイク道具を取り出したあと、GUのロゴ入りの紙袋に詰めていた。
アタシは、子宮キンシュの手術を受けた部分に違和感を感じていた。
数日前に、病院に行って検査を受けた。
その際に、用精密検査と診断された。
エコー検査で、左の乳房に大きなかたまりが見つかった…
そのために、アタシは東京暮らしをたたむことにした。
その後は、市来《いちき》(鹿児島県)で暮らしている知人のもとへ行くことにした。
アタシは、人生の最期《さいご》をのんびりと過ごしたいので治療はしないことにした。
アタシがあいつの家にいた時、ひたちなか市からあいつの一番上の姉のA美が子供さん4人を連れて家に帰っていた。
A美は、アタシを見るなり人を見下した態度で言うたので、アタシの気持ちは怒り心頭になった。
残っている着替えとメイク道具を紙袋に詰め終えたあと、アタシは紙袋と赤茶色のバッグを持って家を出た。
その日の夜遅くであった。
ところ変わって、JR潮来駅の近くにある居酒屋にて
会社からクビを言われたあいつは、やけ酒をあおって、クダを巻いていた。
そんな時であった。
あいつは、となりの男性客がのんでいた酒に手をつけた。
それが原因でトラブルになった。
となりに座っていた男性客は、ヤクザだった。
ところ変わって、酒場街の路地裏にて…
あいつは、ヤクザの男たち数人と乱闘騒ぎを起こした。
その末に、あいつはチンピラのひとりから15センチのヨコキンブロックで激しく殴られた。
「ああ…痛いよ…痛いよ…」
血みどろになったあいつは、苦しんでいた。
それから5分後であった。
紙袋と赤茶色のバッグを持っているアタシがやって来た。
血まみれになって苦しんでいるあいつは、アタシに助けを求めた。
「苦しいよ…助けてくれ…助けてくれ…こずえ…」
アタシは、さげすんだ表情であいつを見つめながらつぶやいた。
何なのよあんたは…
アタシにきつい暴力をふるっておいて…
何が助けてくれよ…
ふざけるな!!
あいつは、アタシの目の前で亡くなった。
アタシの充血した目から、どす黒く汚れた色の涙が止めどなく流れた。
【虚空】
S木さんの婚約者の女性は、休職願いを職場に出した後、関東北部の山沿いの地域にある実家に帰った。
そしてあいつも、職場に居場所をなくした。
2033年7月22日のことであった。
ところ変わって、工場長室にて…
あいつと工場長さんはこんな会話をしていた。
「はるよしさん!!S木さんが亡くなってから10日が経過した…その間に4人の従業員さんがやめたのだよ!!どうしてだと思う!?」
「知らねーよ…」
「キサマ!!S木さんは、うちの工場の主任だよ主任!!主任と言うことは、従業員さんたちにお仕事を教えたり現場をまとめる役割があるのだぞ!!」
「それがどーかしたのかよ!?」
「工場の主任がいなくなったらな!!工場は機能しなくなるのだぞ!!」
「知らねえよバカ!!オドレがS木ばかりをえこひいきばかりしていたからS木が殺されたのだよ!!」
「えこひいき…ワシがいつS木さんにえこひいきをしたと言うのだ!?」
「あんたよぉ、S木のバカとどういう関係があるのだよ…」
「キサマはS木さんがどんなつらい思いをして生きてきたのか分からないのか!?」
「S木はむかつくヤローだったのだよ!!主任づらして従業員さんたちを痛め付けるだけ痛めつけたのだから、天罰を喰らったのだよ!!」
「S木さんは、22年前の大震災の時に実家を津波で流された上に両親ときょうだい4人が行方不明になってしまったのだよ!!その時S木さんは中学3年だったのだよ!!高校進学を断念して、おじさん夫婦が経営している秋保《あきう》の温泉旅館で下足番をしていた!!高校に行きたい…高校に行きたいと…毎日毎日泣きながら旅館の下足番の仕事ばかりを繰り返した…ワシはその時、家族でそこの旅館に宿泊していた…高校に行きたかったのに下足番を選んだS木さんのことを思って、『ワシが話をつけておくから…うちの工場へ再就職をしろ…通信制の高校に行けるように手はずを整えるから…』…と言うた…その後、うちの工場で働きながら通信制高校で学んでいたのだぞ!!高校卒業後は大学に進学をせずにうちの工場で何もかもをがまんして…安いお給料に文句ひとつ言わずに働いてきたのだぞ!!キサマはそんなS木さんをバカ呼ばわりしたのだからぶっ殺してやる!!」
「殺せよ!!殺してやると言うのであれば、ひと思いに殺せよバカ工場長!!バカ工場長にバカ主任…バカばかりでやって行けねーよ!!バカS木をヨウゴした分もふくめて呪い殺すからな!!」
「よくわかった!!今日限りでクビや!!出て行け!!」
あいつは、工場長さんのデスクを右足でけとばしたあと、その場から立ち去った。
その頃であった。
アタシは、一度あいつの家に行った。
家に残っているアタシの着替えとメイク道具を取り出したあと、GUのロゴ入りの紙袋に詰めていた。
アタシは、子宮キンシュの手術を受けた部分に違和感を感じていた。
数日前に、病院に行って検査を受けた。
その際に、用精密検査と診断された。
エコー検査で、左の乳房に大きなかたまりが見つかった…
そのために、アタシは東京暮らしをたたむことにした。
その後は、市来《いちき》(鹿児島県)で暮らしている知人のもとへ行くことにした。
アタシは、人生の最期《さいご》をのんびりと過ごしたいので治療はしないことにした。
アタシがあいつの家にいた時、ひたちなか市からあいつの一番上の姉のA美が子供さん4人を連れて家に帰っていた。
A美は、アタシを見るなり人を見下した態度で言うたので、アタシの気持ちは怒り心頭になった。
残っている着替えとメイク道具を紙袋に詰め終えたあと、アタシは紙袋と赤茶色のバッグを持って家を出た。
その日の夜遅くであった。
ところ変わって、JR潮来駅の近くにある居酒屋にて
会社からクビを言われたあいつは、やけ酒をあおって、クダを巻いていた。
そんな時であった。
あいつは、となりの男性客がのんでいた酒に手をつけた。
それが原因でトラブルになった。
となりに座っていた男性客は、ヤクザだった。
ところ変わって、酒場街の路地裏にて…
あいつは、ヤクザの男たち数人と乱闘騒ぎを起こした。
その末に、あいつはチンピラのひとりから15センチのヨコキンブロックで激しく殴られた。
「ああ…痛いよ…痛いよ…」
血みどろになったあいつは、苦しんでいた。
それから5分後であった。
紙袋と赤茶色のバッグを持っているアタシがやって来た。
血まみれになって苦しんでいるあいつは、アタシに助けを求めた。
「苦しいよ…助けてくれ…助けてくれ…こずえ…」
アタシは、さげすんだ表情であいつを見つめながらつぶやいた。
何なのよあんたは…
アタシにきつい暴力をふるっておいて…
何が助けてくれよ…
ふざけるな!!
あいつは、アタシの目の前で亡くなった。
アタシの充血した目から、どす黒く汚れた色の涙が止めどなく流れた。
【虚空】