愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~
「ソフィア。その、いろいろと手伝ってくれてありがとう。本当に助かったよ。」
エルマーが感謝を告げると、
ソフィアはうんうんと首を振る。
「当然のことをしただけよ。いつもエルマーにはお世話になってるから、今度は私があなたを助ける番だと思ったの。」

その時、遠くからソフィアを呼ぶ声が聞こえる。
おそらく弟たちが姉を探しているのだろう。
「家族が呼んでいるから、もう行かないと。あまり思いつめすぎないでね。」
ソフィアはそう言うと持っていたハンカチで、
エルマーの目尻に溜まっていた涙をそっと拭いてあげる。
「いつまでも悲しんでいたら、ヨーゼフ様が安心して天国に行けないわ。」
「そうだね。」

ソフィアがいなくなった後も、
エルマーはしばらく墓石の前に突っ立っていた。
ソフィアが置いていったリラの花束を見つめる。
その昔、内戦が起きる前はアンシュッツ家の領地には
リラの木がたくさん植わっている公園があり、
毎年春になると美しく咲き乱れるリラの花を観にたくさんの観光客が訪れていた。
祖父も甘い香りのするこの花が大好きで、
エルマーたちをよく花見に連れて行ってくれた。
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