愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~

真夜中の秘密の逢瀬

ヨーゼフの死によって、
エルマーの肩書は正式にシュトラウス公爵となった。
マグノリア王国の公爵位を持つ者のうちで最も若く、唯一の独身男性だ。
おまけに夜遊びをキッパリと辞めたとあって、
「そろそろ公爵も伴侶を選ぶ決意を固めたのでは」という噂が社交界を駆け巡り、
エルマー争奪戦は佳境を迎えていた。
先日ユリウス国王がウィステリア王国ジゼル王女との婚約を発表したので、
ユリウスの妃を狙っていた層がエルマーに来たため、
ますますの大混戦である。

令嬢やその親たちが必死に機会を伺う一方で、
当のエルマーはその喧騒をよそにどこ吹く風だ。
というか、そんなことに構っている暇はなかった。
エルマーの本命はソフィアなのだから。
彼女の気を引こうとあれやこれやと試みるのだが、
最近のソフィアはどこかよそよそしい。
エルマーが話しかけてもすぐに話を切り上げようとするし、
やたらに人目を気にするのだ。

(さっきもそうだった。)
廊下で見かけたソフィアが重い荷物を運んでいたので、
いつものようにそれを持ってあげると、
周囲を気にしながらそれを奪い返したのだ。
「どうして?重いでしょ、これ。目的地まで持って行くよ。」
「辞めてちょうだい、エルマー。私の仕事だから。」
コソコソ声でソフィアが懇願する。
「もうあなたと私では立場がぜんぜん違うの。公爵様がこんなことしてはいけないの。」
ソフィアは泣きそうな顔をして慌ただしく去ってしまった。
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