愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~
アンシュッツ家は身分こそ子爵という低い位だが、
その歴史はシュトラウス家よりも古く、マグノリア王国初期にまで遡れるほどだ。
王家に次ぐ歴史の長さと言っても過言ではないかもしれない。
多くの家は各時代の権力闘争の中で滅んでいったが、
アンシュッツ家は権力への執着がなく、
子爵という位に満足して先祖代々つつましく生きてきた。
エルマーに言わせれば、
アンシュッツ家こそ歴史における勝者だ。

「時代は変わったんだよ、ソフィア。誰も俺たちを咎める者はいないし、させない。それに爺ちゃんもソフィアのことが大好きだったから、きっと天国で大喜びだよ。」
「そうね、ヨーゼフ様が喜んでくださると私も嬉しいわ。」
「大広間に戻って見せびらかしたいところだけど、ソフィアの可愛い泣き顔を誰にも見られたくないしな。戻るのはやめよう。明日王妃様に謝罪すればいいか。」
そう言うと、エルマーはソフィアの手を引いてリラの花が植えられた場所に連れて行く。
「ラッキーライラックって覚えてる?」
エルマーがソフィアに聞いた。
「もちろん。昔よく一緒に探したでしょ。」
「あれは俺の気持ちでもある。ソフィアが好きって気持ち、永遠に変わらない。」
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