愛が芽生える刻 ~リラの花のおまじない~
「最期に陛下と孫の顔を見ることが出来て、私も思い残すことはありません。」
遠くを見つめながら、ヨーゼフは独り言のように呟く。
「何を言っているんだ。じぃにはもっと長生きしてもらわないと。ねぇ、じぃ。ジゼルと婚約したんだ。私に子どもが出来たら、じぃに真っ先に抱いてもらおうと思っていたんだよ。」
ユリウスも別れの時が来たのを分かっているのだろう、涙声になっている。
「ユリウス様の御子様はそれは美しい御子様でしょうなぁ。私もお会いしたかった。」
ヨーゼフの声はもう聞こえるか聞こえないかくらいの囁くような声だ。
「ユリウス様。もし御子様が生まれたら私の彫像に見せに来てください。そしたらよく見えるでしょうから。ユリウス様とギーゼラ様と御子様たちのことをずっと見守っていますよ。」
「あぁ、あぁ。必ずそうする。約束だ。」

ヨーゼフのユリウスを見つめていた瞳は、ふいにエルマーに向けられる。
祖父からの最期の言葉になるとエルマーは直感で思った。
「エルマー、私に代わってユリウス様をしっかりお守りするように。そして今ある繋がりを大切にするように。身分や立場に関係なくお前と繋がってくれる者たちを決して疎かにしてはいけないよ。」
「うん、爺ちゃん。約束する。だから・・・」
エルマーは思わず声を詰まらせてしまった。
幼い頃に両親を亡くしてから、父親代わりとして自分を育ててくれた祖父。
大好きな祖父との大切な思い出があふれ出てくる。
「長い間お疲れ様。そしてありがとう。」
エルマーの言葉にフッと微笑むと、そのまま静かにヨーゼフは息を引き取った。
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