さくらの記憶
ポカーンと、さくらはしばらく呆然としてしまう。

(なんだろう?北斗さん、なんか怒ってた?)

首をひねってみても、理由が分からない。

とりあえず落ち着こうと、お湯を沸かして紅茶を淹れた時だった。

ピンポーンとインターホンが鳴る。

「さくら!俺」
「北斗さん?え、早っ」

ドアを開けた途端、さくらの視界は一気に塞がれた。

(え、な、なに?)

気がつくと、北斗の胸にギュッと抱きしめられていた。

「さくら、さくら!」

切ない声で名前を呼ばれる。

「…北斗さん」

身体に伝わってくる北斗の温もり、切なさ、喜び…

さくらは、色んな感情が込み上げてきて、胸が一杯になる。

「会いたかった、さくら…」

振り絞るような北斗の声に、さくらの目にも涙が溢れる。

(そうだ、私、会いたかったんだ、北斗さんに。こうやって抱きしめてもらいたかった。ずっとずっと…)

「北斗さん…」

北斗の背中に回した両手にギュッと力を込めて、さくらは北斗の胸に顔をうずめた。
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