さくらの記憶
「いや、でもまだ安心できない。さくら、なんだってこんな都会で、あんなに大勢の男がいる会社で働いてるんだ?」

…は?と、さくらは呆気に取られる。

「ほ、北斗さん?どういう意味?」
「こんなに可愛いさくらが、他の男達の目に触れるかと思うと、気が気じゃない!さくらのあの制服姿、めちゃくちゃ可愛かったぞ?それに、あの栗林のやつ!お前のこと、さくらちゃんとか呼んでただろ?なんだあいつは!もうあんな男とは一緒に仕事できん!」
「そんな…。それは公私混同でしょ?」
「だからって、耐えられるか?俺が遠くにいるのに、あいつは毎日さくらと会って、さくらと話ができる。そんなの許せん!」

そんなこと言ったって…と、さくらは半ば呆れたように苦笑いする。

「北斗さん。私が好きなのはあなたです。私はずっとあなただけのもの。だから私を信じて。ね?」

北斗は、ひょこっと首を傾げて自分の顔を覗き込むさくらに、ポッと顔を赤らめた。

「さくら、可愛い…」
「は?こ、今度は何を言い出すの?」
「だって、可愛いんだもん。さくら、大好きだ」

ようやく笑顔になった北斗は、さくらを大事そうに抱きしめる。

「私も。北斗さんが大好き」

北斗は優しく微笑むと、さくらにゆっくりとキスをした。

互いの胸に、温かい幸せが込み上げてくる。

やがてさくらから離れた北斗は、戸惑いながら、ジャケットの内ポケットに手を入れた。
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