さくらの記憶
「もし今回俺が東京にいる間にさくらからメッセージが来て、こっちでさくらに会うことができたら…。これを渡したいと思っていたんだ」

そう言って、真っ白な四角いケースを取り出す。

北斗が開けて見せると、中には小さな指輪が入っていた。

「わあ、可愛い!」

真ん中のダイヤモンドの両側に、ピンク色の丸いガラス玉がついている。

「このガラス玉の中に、あの木の花びらを入れてあるんだ。地元のガラス職人に頼んで作ってもらった」
「えっ?!」

さくらは驚いて目を凝らして見る。

薄いピンクのこの色は、天然の花びらの色合いなのだろうか…

「さくら…。もしさくらが、俺のことを忘れたくないと思ってくれるのなら、この指輪を着けてくれないか?」

北斗は、真剣な眼差しでさくらに問いかける。

「毎日、絆創膏で貼るくらいなら、この指輪を着ける方がいいんじゃないかと思って。でも、無理にとは言わない。俺はこの指輪でさくらを縛り付けたくはないんだ。だから、もし気が向いたら…」

北斗の話の途中で、さくらは左手を差し出した。

「北斗さん、はめてもらっていいですか?」
「え?あ、ああ」

北斗は、ケースから指輪を外すと、そっとさくらの左手を取り、小指にはめる。

さくらは、ちょっと首を傾げて手を振ってみた。

「ゆるくて、落ちちゃうかも。ほら、下に向けると」

するりと指輪が滑り落ち、北斗は慌てて受け止める。

「あれ?一般的な女性の小指のサイズでって作ってもらったんだけどなあ。さくら、指細いんだな」
「この指なら合うかも」

さくらが、隣の薬指を指差す。

「え?いや。その指はだって…。じゃあ、右手の薬指は?」
「うーん、どうかな?私、右手の方が左手より少し太いから、入らないかも」

北斗が試してみると、やはり最後までは入り切らない。

「やっぱり左手の薬指にしか入らないと思う」

さくらがそう言うと、北斗はためらってうつむいた。
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