さくらの記憶
それから4年が経ち、また桜の咲く季節がやって来た。

穂高(ほたか)ー!ちょっと、待ちなさーい!」

朝から屋敷に、さくらの大きな声が響き渡る。

「どうしたんじゃ?さくらちゃん」
「おじいさん。また穂高が、裸足のまま出て行っちゃったの」

さくらは困ったように、向かいの家に入っていく穂高を見届ける。

「ははは!まあいいじゃないか。元気な証拠じゃ」
「そうだけど…。何か踏んで、怪我するんじゃないかしら」
「穂高は毎日裸足で走り回っとるから、足の裏も鍛えられとるよ。ちょっとやそっとじゃ、怪我はせん」
「確かに。そうですよね」

さくらは、祖父と笑い合う。

土地活用は順調に進み、この屋敷の前にも家族連れが数組移住してきた。

北斗とさくらの息子、穂高も3歳になり、毎日誰かとどこかで遊んでいる。

そんな田舎ならではの暮らしを、さくらものんびり楽しみ、また新たな赤ちゃんを迎えようとしていた。

「さてと、穂高はしばらく翔ちゃん達と遊んでると思うし、今のうちにお洗濯でも…」

そう言って、大きなお腹を抱えながら立ち上がった時だった。

「う、いたた…」

さくらは、思わずお腹に手を当てて顔をしかめる。

「大丈夫かい?さくらちゃん」
「んー、もしかして陣痛かも?」
「え!そりゃ大変じゃ。おーい、北斗!さくらちゃん、陣痛がきたみたいじゃ」

2階から、スーツに着替えていた北斗が急いで下りてくる。

「さくら?大丈夫か?」
「うん。まだ軽いから、そんなすぐには産まれないと思うけど」
「分かった。とにかく連絡しよう」
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