さくらの記憶
「さくら?なあ、ここを開けてくれ」

部屋をノックしながら声をかけると、いや!と即座に返事が来た。

「北斗さん、また私を遠い病院に連れて行くつもりだったんでしょ?!」
「いや、そんなことは…あるけども…」
「私、絶対に行かない!この部屋からも出ないから!」
「そ、そんな訳にいかないだろ?」
「ここには、トイレもお風呂もついてるんですからねー!」

そうだった…と、北斗はガクリとうなだれる。

そしてハッと思い出し、自分の部屋に入ると、ベッドの横のドアに手をかけ、そっと押してみた。

さくらは鍵を掛けていなかったようで、少しドアが開く。

よし、と北斗は腕に力を込め、さくら、入るぞと言ってからドアを開けた。

「あっ、だめ!」

慌ててドアを押さえようとするさくらの腕を掴む。

「こら、暴れるなって!」
「バカバカ!北斗さんのバカー!」

さくらは、北斗の胸を両手でポカポカと叩く。

「いてっ!さくら、痛いってば」

だが、さくらの手がだんだん弱まり、やがて涙をこぼし始めたのに気づくと、北斗はさくらを抱きしめた。

「…さくら」
「北斗さん…」

腕の中でしゃくり上げるさくらの頭を、北斗は優しく抱き寄せた。
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