さくらの記憶
数日経った頃、さくらは夢の話を北斗と祖父にしてみた。

「同じ夢を見るの?毎晩?」

朝食を食べながら、北斗がさくらに聞き返す。

「はい。ここに来てから毎晩夢を見るようになって、毎回同じ人が出てくるんです」
「ふうん、どんな人?」
「若い男の人と女の人です。おそらく、カップルとか、ご夫婦なのかな?」

北斗は、それとなく祖父と顔を見合わせた。

(もしかして、その二人って…)

そう思っていると、さくらが思い出したようにパッと顔を上げた。

「あ、そう、着物姿なんです。二人とも」
「着物?ってことは、現代の人じゃないのかな?」
「はい、おそらく。髪型とかを見てもそんな感じがします」

北斗は、祖父を見て頷いた。

(間違いない。この子は、あの木に眠る二人の夢を見ている)

「それで、どんな夢なの?その二人が何かをしているの?」

北斗の質問に、さくらは、うーんと考える。

「あまり、はっきりとはしないのですけど…。何かを私に頼んでいるような感じがするんです」
「頼む?え、何を?」
「それがよく分からないんです。ただ、お願い、守って…って」

(守る…それは、あの木を?)

北斗も頭の中で考え始めると、さくらは、少しためらいながら話を続けた。

「それに私、あの木に触れた時、何かの力を感じたんです。具体的にどうって説明は出来ないんですけど、なんていうか、不思議なエネルギーをあの木から感じました」

すると、それまで黙って聞いていた祖父が顔を上げる。

「さくらちゃん、私はその話を信じるよ。君はあの木から何かを感じて受け取ったんじゃ。あの木には、不思議な力がある。さくらちゃん、もし気持ちが向くなら、もう一度あの木に触れて語りかけてみたらどうじゃろう?何か分かるかもしれない」

さくらは、祖父の話をじっと聞いていたが、やがてコクリと頷いた。
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