さくらの記憶
「さくらちゃん、気分転換にどこか出かけないか?外の景色を見たら、何か思い出すかもしれないし」

仕事が休みの日に、そう言って北斗はさくらをドライブに誘った。

「あ、はい!行きたいです」

さくらはにっこり笑って頷いた。

「よし!じゃあ行こう!」

そして北斗の運転する4WDで、二人は当てのないドライブに出かけた。

「凄い、ずーっと緑が続いてるんですね」
「ああ。なんにもない田舎だからね。この景色を新鮮に感じるってことは、さくらちゃんはきっと都会の子なんだね」
「そうなのかなー。でもこの景色、私は好きです。いつまでも見ていたい」
「そう?何も変わり映えしないのに?」
「ええ。なんだか懐かしくて、ホッとします」

ふーん、と北斗は、嬉しそうなさくらの横顔を見る。

だが、15分ほど走ったところで、さくらの顔色がだんだん青ざめてきたのに気づいた。

「さくらちゃん?どうかした?気分でも悪い?」
「あ、あの…。北斗さん、車を、停めてもらえませんか?」
「え?ああ、うん。分かった」

北斗は道端に車を停めて、さくらの顔を覗き込む。

「大丈夫?車酔いした?」
「いえ、あの。私、なぜだか戻りたいんです。この先へ進みたくない。どうしてなのか、頭の中が混乱してきて…。どこから来たのか、忘れそう…。とにかく、戻りたいの」
「そうか、分かった。すぐ引き返そう」

北斗はUターンすると、もと来た道を走り出す。

屋敷に近づくにつれて、さくらは見る見るうちに表情が明るくなった。

「良かった、落ち着いたみたいだね」
「はい、ホッとしました」

さくらは北斗に微笑んで頷いた。
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