さくらの記憶
「さくら、しっかりしろよ」

声をかけながら、ひたすら車を走らせる。

この町の小さな診療所では心許ない。

北斗は、隣の県の総合病院に向かっていた。

(その方が、さくらの記憶もちゃんと戻るだろう)

これ以上、さくらを巻き込む訳にはいかなかった。

どんなに拒まれても、さくらをここから引き離し、もとの生活に戻さなければ。

北斗は、ただひたすらさくらの無事を願い、病院へと急いだ。

(よし、もう少しで着く。ここを曲がれば…)

その時、んっ…とさくらが目を開いた。

パチパチと瞬きをくり返してから、急にガバッと身体を起こす。

「さくら?大丈夫か?」
「ほ、北斗さん?どこに向かってるの?」
「病院だ」
「病院?!どうして?いや、行かない!私、帰りたいの!戻って、早く!」

さくらは、取り乱して北斗の腕を掴んでくる。

運転が危なくなり、北斗は一旦車を停めた。
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