さくらの記憶

「さくらちゃん、今はもう23歳なんだね」

ウッドデッキでお茶を飲みながら、祖父が言う。

「そうみたいですねー、実感ないですけど」
「いやー、すっかり綺麗な大人の女性じゃよ。結婚は、しとるのかねえ？」

北斗は思わずゴホッと咳き込む。

「指輪ははめてないですけど、どうなんでしょうねー？」

左手を広げながら、他人事のようにさくらが言うと、北斗は慌てて否定する。

「してねーよ！さくらはまだ独身だ」

祖父とさくらは、驚いて北斗を見る。

「なんでお前がそんなこと知っとるんじゃ？」
「だ、だって、さくらはさっき免許証見て、高山 さくらって呟いてた。高山は、さくらの5年前の名字と同じだ」

へえー、と二人は感心する。

「なるほどなー。でも、結婚はまだでも、彼氏の一人や二人はいるじゃろうな」

北斗は、再びお茶にむせ返る。

「な、なんで二人なんだよ？」
「そうですよね。23歳っていったら、やっぱりおつき合いしてる人の一人や二人はいるものなんでしょうねえ」
「だから、さくらも！なんで二人もいるんだよ？一人はともかく、二人とつき合うとか、さくらがそんなことするなんて、そんなのあり得ないだろ？！」

またしても、祖父とさくらは北斗に驚く。

「お前、なんでそんなにムキになっとるんじゃ？さくらちゃん、北斗はね、いやーもう、からっきしなんじゃよ。結婚どころか、彼女もずーっと出来なくてな。わしはもう、ひ孫の顔を見る夢は諦めた。せめてもう一度さくらちゃんに会えたらなーと思っとったんじゃよ。だからまたこうして君に会えて、本当に嬉しくてな」
「私も。おじいさんにまた会えて、とっても嬉しいです。ずっとお元気でいてくださいね」

テーブルの上の祖父の手を握ってさくらが微笑むと、祖父は心底嬉しそうに笑って頷いた。