さくらの記憶
その日の夜。
さくらは、あの木の二人の夢を見た。

何かをこちらに語りかけている。
だが、いつもなら伝わってくる二人の言葉が、まるで聞こえてこない。

だんだん二人は、必死に何かを叫ぶように大きく口を動かしている。

(なに?何を伝えたいの?はなさん、尊さん?)

さくらがどんなに耳を傾けても、言葉は伝わってこなかった。

ハッと目を覚ましたさくらは、じんわり汗ばみ、荒い息をくり返す。

(どうしたのかしら。何かが起きるってこと?)

そっとベッドを降り、カーテンのすき間から外の様子をうかがったが、暗闇が広がるだけで、特に変わった様子はない。

時計を見ると、深夜の1時を過ぎたところだった。

仕方なくもう一度ベッドに潜り込んだが、寝付けそうにない。

(眠れない、なんだか怖い)

さくらはもう一度起き上がると、ベッドのすぐ横のドアのすき間を覗き込んだ。

明かりが少し漏れている。

ホッとしたさくらは、ためらいながら、小さくドアをノックした。
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