さくらの記憶
コンコンとドアをノックする小さな音がして、北斗は顔を上げる。

ベッドの上で読んでいた本をサイドテーブルに置くと、さくら?と呼びかける。

「どうしたの?さくら」

すると、ゆっくりドアが開いて、枕を胸に抱きしめたさくらが顔を覗かせた。

「北斗さん、起きてました?」
「ああ。さくらは?眠れないの?」

さくらは両手で枕を抱いたまま頷く。

「なんだか、怖くて。あの、ここで寝てもいいですか?」
「えっ?!ここでって、ここ?」

北斗は、自分が今いるベッドをキョロキョロと見下ろす。

「だめですか?端っこの方にいますから」
「え、そ、それは、まあ」
「北斗さん、1人じゃないと無理なタイプ?隣に人がいると寝られない?」
「そ、そういう訳じゃないけど、違う意味で寝られないというか…」

ドギマギしながらさくらを見ると、真剣な顔でこちらをうかがっている。

どうやら、本当に1人で寝るのが怖いらしい。

「いいよ、おいで」

北斗がそう言うと、ホッとしたように笑って、布団に潜り込んできた。

「電気消すよ。あ、真っ暗は怖いんだよな?じゃあ、ランプを小さく点けておくから」
「うん、ありがとう」

まるであどけない少女のように微笑むさくらにドキッとして、北斗は慌てて横になった。
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