さくらの記憶
「北斗さん、そんなに端っこにいると落ちちゃうよ?」
「いや、大丈夫。俺、端っこが好きなんだ」
「そうなの?こんなにベッド広いのに?」
「そ、そうなんだよ。いつも、ここで小さくなって寝てるんだ」
「ふうーん、もったいないね。それにどうしてそっち向きで寝るの?顔が見えないよ」
「そ、それは、俺、横向き派なんだよ」
「じゃあ、こっち向きに横になって?」
「それが、その、俺、こっち向きの横派なんだ」
「えー?!北斗さん、色々こだわり強すぎ」

後ろから、さくらの拗ねたような声が聞こえる。

(こだわりなんか、ねーよ!いつもゴーロゴロどっち向きでも寝てるよ!)

心の中でそう言うが、今はとにかく黙っておく。

(そうだ、いっそのこと寝たフリするか?それがいい。そうしよう)

「ねえ、北斗さん」

やがてさくらに呼びかけられたが、返事はしない。

「…北斗さん?寝ちゃった?」

さくらが少し身体を起こして、顔を覗き込んでくる気配がする。

(やばい!寝たフリ寝たフリ…)

北斗は、目を閉じてじっと固まる。

「北斗さん、寝るの早っ!いいなー、スヤスヤ寝られて」

(全然スヤスヤじゃねーぞ!心臓バックバクだぞ!)

「北斗さん、寝顔もかっこいいな。口、ボカーンとかならないんだね」

(そ、そりゃ、キメ顔のまま固まってるからな)

と、次の瞬間、ビタッと背中にさくらが寄り添ってきた。

(ヒーーッ!!目覚める!俺の色々なものが目覚めるー!)

北斗は息を止めて必死でこらえる。

「こうやってると、安心する」

さくらの囁くような声が、背中越しに伝わってくる。

「北斗さん、大好き…」

そして、スーッとさくらは眠りに落ちていった。

(はあーーー、もう、色々やばかった…)

北斗はようやく身体の力を抜く。
だが、それからも身動き取れず、一睡も出来ないまま朝を迎えた。
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