さくらの記憶
「北斗さん!!」

呆然と立ち尽くす僧侶の手から、真っ赤に染まった鎌がポトリと落ちる。

そしてそのすぐそばに、北斗が血を流して倒れていた。

「北斗さん、北斗さん?!」

さくらは飛びついて抱き起こす。

「…さくら、怪我は?」

北斗が、わずかに目を開けて聞く。

「私は平気、なんともないわ」
「良かった…」

安心したように、北斗は大きく息を吐いて目を閉じた。

「いや!北斗さん!目を開けて!」

さくらは、泣きながら必死に叫ぶ。

「さくらちゃん、北斗!一体なにが…」

祖父が走り寄ってきた。

「おじいさん、救急車を!早く!北斗さんが、北斗さんが!」
「わ、わかった」

さくらは、胸にギュッと北斗を抱きしめる。

(いや、いやよ。北斗さん!死なせない。絶対に私が助ける!)

唇をギュッと噛むと、涙をこらえ、さくらは北斗をそっと地面に寝かせる。

そして、血が溢れている北斗の腹部に両手を添えると、目を閉じて息を整えた。

(お願い、私に力を…)

グッと両手に力を込める。

すると、さくらの手のひらに、ほのかな光が生まれた。

それを北斗の傷口に触れさせるように、さくらは手を当てて力を注ぎ続ける。

「さくらちゃん!北斗は…」

戻ってきた祖父がそばに屈み込み、北斗のシャツをまくり上げる。

「血の流れが、止まった…。傷口が閉じてきている」

さくらは、自分の魂を込めるように、北斗に力を送り続ける。

ポタポタと、汗が自分の手に落ちる。

「さくらちゃん、大丈夫か?」

祖父が心配そうに声をかけるが、さくらの鬼気迫る表情に思わず圧倒されて口をつぐむ。
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