婚約破棄された公爵令嬢は冷徹国王の溺愛を信じない
 見送りもしないなんて、妻失格だろう。
 朝陽が差し込む窓を開け、ルチアは身を乗り出した。
 今にも出発しようとしている騎士や従者たちの中、先頭に黒い鎧をまとったジュストが見える。
 まるで戦にいくような重装備だが、内乱が収まったばかりでの視察はそれだけ危険が伴うのだろう。
 そう思うと、ルチアの胸はぐっと苦しくなった。
 昨日会ったばかりで会話もほとんどない、冷たい態度のジュストだったが、それでもルチアの夫となったのだ。
「陛下!」
 ルチアが大声で呼ぶと、ジュストだけでなく前庭にいた皆が振り向いた。
 背後ではマノンたちが「ルチア様!」と悲鳴をあげている。
 髪も結わずに窓から身を乗り出して大声で呼ぶなど、淑女としてはしたないどころではない。
 それでもルチアは伝えずにはいられなかった。
「どうか道中お気をつけていってらっしゃいませ! ご無事でのお戻り、お待ちしております!」
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