婚約破棄された公爵令嬢は冷徹国王の溺愛を信じない
 静まり返った前庭に、ルチアの声はよく響いた。
 ジュストは軽く目を見開き驚いた様子だったが、何も言わずにくるりと前に向き直る。
 それから、ようやくルチアに応えるように右腕を高く上げた。
 途端にその場が沸く。
 見えていないのはわかっていたが、ルチアは大きく手を振った。
 そのまま進み始めたジュストに騎士たちが従い、その一団が見えなくなるまでルチアは手を振り続けた。──が、背後から不穏な気配が伝わってくる。
「ルチア様、お見送りなさりたかったのなら、おっしゃってくだされば、お起こしいたしましたのに」
「あ、うん。昨日はいろいろあって、すっかり失念していて……」
挿絵①

「だからといって、そのように御髪を振り乱して大声を出されるなど、陛下やこの国の人たちはさぞかし驚かれたでしょうね」
「……そうかも」
 子どもの頃から世話をしてくれているマノンに、ルチアは頭が上がらなかった。
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