婚約破棄された公爵令嬢は冷徹国王の溺愛を信じない
 ルチアはジュストに手を引かれて堂々と歩きながらも、内心では不安でいっぱいだった。
 こんなにもルチアが初対面から強い態度で臨んでいるのは、ジュストにも噂があるからだ。
 ジュスト・バランドは悪魔の化身である、と。冷酷無比で人の心を持たぬ覇王。
 戦時下においてはそれも仕方ないことだとルチアは理解していたが、問題はこれからだった。
 本当に心がないのならば、道中で見かけた荒れ果てた畑や荒んだ村をこれからも気にかけることはないだろう。
(ううん。きっとこの国を立て直すつもりで私との結婚を決めたんだわ。……要するに持参金目当てで、私はおまけ。ここでも私は二番目だか何番目だかになるんでしょうね……)
 ふうっと小さく息を吐いたルチアは、ほんの少し過去へと思いを馳せた。
 ルチアには前世の記憶がある。
 ここではない世界──日本という国で派遣社員として働いていた頃の記憶。
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