愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
 逃げたってなにも変わらない。かえってつらくなるだけだろう。凛ちゃんに祖父母のことをなんて説明する?

 萌と凛ちゃんにつらい思いも苦労もさせたくない。だったら両親を説得して、珠緒にも何度も告げているがしっかりと婚約破棄の意思を伝え、最高の形で迎えにいくべきだ。

「今度こそ萌を幸せにしたい」

 そのためにもまだ断片的な記憶もあるため、一刻も早くすべての記憶を取り戻そう。そして両親を説得する。心にそう強く決めた。


 次の日、精密検査が行われ、結果とくに異常がないと診断された。今回記憶を取り戻したことをきっかけに、いずれはすべてを思い出すだろうとも言われた。

 母はヒステリックになりながら萌のことを責め立てていて、珠緒もまた「絶対に私は婚約破棄なんてしない」と言う。今のふたりの状態では話にならないと思い、予定を早めて俺は東京へと戻った。

 一ヵ月近く出張に出ていたのだから当然仕事が溜まっており、まずは連日その処理に追われていた。

「さすがに疲れたな」

 戻って一週間ほどは残業続きで、まともに眠れていなかった。誰もいないオフィスで時間を確認すると十九時になろうとしていた。
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