愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
 事故の原因は、突然道路に飛び出した女の子を助けるためだった。手にしていた花束を放り投げて無我夢中で助けに入った。俺は女の子をこの手にしっかりと抱きしめることができた?

 思い出そうとしても思い出せない。蘇るのは目の前に迫りくる車の映像ばかり。

 居ても立っても居られず、急いで帰った俺は四年前の事故について調べ始めた。


 数日後――。
 営業の合間を縫って俺は都内のある墓地を訪れていた。

「ここだ」

 購入した花を活け、線香を焚いてそっと手を合わせた。

 俺が助けようとした女の子は、あの事故で亡くなったと新聞記事に書かれていた。俺はあの子を助けることができなかったんだ。

 女の子は凛よりふたつ上の当時五歳。母親と一緒に出張から戻ってきた父親を駅まで迎えに向かっている途中で起きた事故だった。

「俺があと少し早く助けに入っていたら、あの子は今も生きていたかもしれない」

 必死に手を伸ばした記憶が蘇り、ここ数日苛まれている。

 幼い命を助けられなかった俺が、萌と幸せになってもいいのだろうか。

 手を合わせながら、自然と涙が零れ落ちた。何度も拭い、女の子が眠る墓前に俺のことを恨んでいないかと、問い続けてしまう。
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