愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
「あの事故は、信号無視をして交差点に進入してきた運転手が悪いんだ。女の子を助けられなかったからとお前が気に病む必要はない」

 静かな墓地に突然聞こえてきた声に驚く俺の横に、いつの間にか父が立っていた。

「父さん? なぜここに……?」

 動揺を隠せずにいると、父は小さく息を吐いた。

「母さんからお前が記憶を取り戻したと聞き、SPを付けていたことに気づかなかったのか?」

「SPって……」

 ふと周囲を見回せば、それらしき体格が良いスーツ姿の男性が三名離れた場所で、こちらの様子を窺っていた。

 どうやら父の話は本当のようだ。まったく気づかなかった。

「SPからお前が神楽坂の娘さんと会った帰り道、様子がおかしかったと報告を受けてな。行く先々を細かに報告するよう伝えていたんだ」

 それで俺がここに来たことを知ったってわけだ。

「それじゃ父さんは知っていたのか? 俺が助けに入った子が亡くなっていたことを」

「……あぁ。だからこそお前には女の子の死も、失われた彼女との記憶も言えずにいた」

 父の言いたいことがわからず、もどかしい。
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