愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
「女の子の死と、萌のことは別問題だ。なぜ言ってくれなかったんだ？」

　事実を知りたくて詰めよれば、父親はゆっくりと俺を見つめた。

「今のお前の顔を見ればわかるだろう。事実を知れば自分を責め、彼女と自分だけが幸せになるわけにはいかないと悩み、苦しむと思ったんだ。違うか？」

「それはっ……！」

　図星を突かれ、返す言葉が見つからない。まさに今、女の子の前で悩んでいたのだから。

　俺を見て察したようで父は深いため息を漏らす。

「母さんのしたことはたしかに間違っていただろう。しかし、記憶を取り戻したらお前は苦しむ。それはきっと彼女も同じだったはずだ。だから私は沈黙を貫いた」

　父の言いたいことはわかる。それがきっと父なりの優しさだったのだろう。

「それでも俺は言ってほしかった。……萌との記憶を失うなら、一生女の子を救えなかったことを悔やみ、悩む人生のほうがマシだ」

　はっきりと自分の思いを伝えたら、父は珍しく目を丸くさせた。しかしすぐに厳しい表情に変わる。

「それは今のお前が言えることであって、昔のお前は違ったはずだ。私の判断は正しかった」

「そうかもしれないが、それでも俺は言ってほしかったっ」

　萌ならきっと、一緒に分かち合おうと言ってくれたはず。俺だって逆の立場だったら萌のつらさを請け負いたいと思うから。

　悲痛な胸の内を明かすも、父は表情を変えずにジッと俺を見つめる。

「親の心子知らずとはよく言ったものだ。俺がどんな思いでお前を見守っていたかも知らずにっ……」

　声を震わせる父の姿に、目を疑う。
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