愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
 微妙な空気を察知できていないのはほろ酔い気味の文博さんだけ。

 すると、ずっと口を閉ざしていた遼生さんが真剣な面持ちで父を見据えた。それだけでビクッとなる父に対し、遼生さんは深く頭を下げた。

「こんなかたちでご挨拶をすることになってしまい、申し訳ございません。……萌さんにはたくさんつらい思いをさせてしまいましたが、その分、これからは萌も凛も全力で守り、幸せにします」

 両親に挨拶をする彼の姿に、胸が熱くなる。

 四年前も挨拶をしてくれたけれど、その時とは違い言葉に重みがあるよ。それを父も感じ取ったのか、深いため息を漏らした。

「本音を言うと、こうやって遼生君が挨拶に来たら、萌と凛のためにも一発殴ってやろうと思っていたんだ。でもあんな幸せそうな凛を見せられ、丁寧に挨拶をされたらできない」

 がっくり項垂れる父に遼生さんは困惑しながら「殴ってくださってもけっこうです」と言う。

「俺はそれだけのことをしましたから、遠慮なくどうぞ」

「できるか!」

 すかさず立ち上がって突っ込んだ父に、私と母、明子さんは思わず笑ってしまった。そんな中、父の話を聞いた凛は本気で心配して父に詰め寄る。

「じいじ、パパを殴ったら凛、じいじのこと嫌いになるからね!」

「そんなっ……! 殴ったりしないから嫌いにならないでくれ」

 本気でショックを受ける父に、私たちの笑いは増す。よく見れば遼生さんも視線を落として笑いをこらえていた。


 明子さんたちの強い勧めで遼生さんは泊まることになり、初めて彼は凛と一緒にお風呂に入った。

 おかげで私は久しぶりにひとりでゆっくりとお風呂に入ることができて部屋に戻ると、すでに凛は眠っていて遼生さんが人差し指を立てた。
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