愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
「ごめんね、萌ちゃんを責めているわけでも、困らせたいわけでもないの。和泉君と結婚して家庭を築くっていう選択肢もあるってことをわかってほしい。私たちはただ、あなたと凛に幸せになってほしいだけなの」

「明子さん……」

　すると明子さんは私の背中をポンと叩いた。

「さて、そろそろ閉店の準備をしようか。少しケーキが残っているし、値引きの看板を立ててくるね。悪いけど、夕食の準備をお願いね」

「あ、は、はい」

　何事もなかったように看板を立てに店を出ていく明子さんの後ろ姿を眺めながら、なぜか泣きそうになってしまった。

　妊娠がわかってから今まで、明子さんと文博さんはずっと支え続けてくれて、私と凛の幸せを願ってくれる人がいるってことが、どんなに奇跡に近いことか。

　もちろん明子さんとは血が繋がっている。でもいきなり訪ねてきた私を温かく受け入れてくれて、こんなにも大切に想ってくれる明子さんたちには、何度感謝の言葉を伝えても足りないよ。

　そんなふたりの願いなら、どんなことだって叶えてあげたいと思う。……でも、和泉君との結婚だけはどうしても無理だ。

　だって私の心の中には、どうしてもまだ遼生さんがいる。日に日に彼に似てくる凛を見るだけで遼生さんを思い出してしまう。そんな私が結婚なんてできるわけがない。

　遼生さんとの思い出が頭をよぎり、胸が痛む。だけどすぐに頭から追い払って二階に上がり、凛と夕食の準備を進めた。
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