愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
 一筋の涙が頬を伝っているのに、男性は涙を拭うことなく舞台に釘付けだった。

 この舞台はひとりの少年の成長物語。様々な困難にぶつかりながらも、たくさんの人と出会って成長していく姿が感動的に描かれている。
 私もうるっときたけれど、男性ほどではない。彼は感受性がすごく豊かな人なのだろうか。
 とにかく集中しようと舞台に目を向けたものの、どうしても男性のことが気になってしまう。

 少し経ってから再び男性を見ると、やはり涙を拭うことなく舞台に目を向けていた。

 もしかしてハンカチを忘れたとか? それとも拭うことも忘れるほど集中しているの?

 なにはともあれ、隣であれほど涙を流している人に気づいてしまった以上、見て見ぬふりができない。

 余計なお節介かもしれないけれど、やらずに後悔するよりやって後悔するほうがいい。そう思ってバッグの中からハンカチを手に取り、そっと彼の顔の前に差し出した。
 それにはさすがの男性も驚き、私を見る。

 横顔から見て整った顔立ちをしていると思っていたけれど、真正面から見るとますますそう思う。

 髪は短めでセンター分けしているからか綺麗なアーモンドの形をした目がよく見える。整った凛々しい眉に筋の通った高い鼻、少し厚みのある唇をした彼は芸能人と言われても信じてしまうほどカッコいい。

 あとでハンカチを渡せばよかったと後悔したくない一心で差し出したものの、あまりに彼がジッと私を見てくるものだから、ちょっぴり後悔しつつある。
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