愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
 そんなある日の十一時半過ぎ、ちょうど客足が途絶える時間帯。商品棚に残っているケーキを綺麗に並べ、売れ切れてしまった商品札を下げていると、店のドアが開く音がした。

「いらっしゃいませ」

 ショーケースから顔を上げてお客様に声をかけた瞬間、目を疑った。

 商品札が手から滑り落ち、挟んでいた鉄のクリップがカラカランと音を立てた。

「大丈夫ですか?」

 心配そうに声をかけながら近づいてくる男性に目が釘付けになる。

 四年が経ち、前よりも髪は伸びたしより男の男性になっているけれど、私が彼を見間違えるはずがない。

 たとえ、何年、何十年会わなかったとしても、どんなに姿が変わったとしてもすぐに気づける自信がある。

 だから絶対に間違えていないはず。それなのに目の前の彼を見ると、その自信を失っていく。

「あの、お姉さん?」

 なにも言わずに凝視する私を不思議そうに見つめるのは、スーツ姿を身にまとった遼生さん……だよね?

 戸惑う中、厨房にいた文博さんが出てきた。

「いらっしゃいませ、碓氷さん。ようこそいらしてくださいました」

 文博さんの話を聞き、やはり彼が遼生さんだと確信を持つ。

 だってこんなにそっくりで〝碓氷〟っていう苗字の人なんて、そういないはず。だったらなぜ彼は知らないフリをしているの?

 それとも本当に気づいていないだけ? たった四年しか経っていないのに、もう私のことなんて忘れてしまったの?
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