愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする
 いきなりハンカチを出した私を不審に思っている? それとも余計なお世話だとお怒りだろうか。

 マイナスなことばかりが頭に浮かぶ中、男性は「ありがとう」と言って私からハンカチを受け取った。

「あ……いいえ、よかったら使ってください」

 小声で答え、舞台に目を向けた。

 もしかしたら余計なお節介だと思われたかもしれないけれど、受け取ってもらえてよかった。

 その後も感動的なシーンが続き、終演後は割れんばかりの拍手が沸き起こった。

 終盤からラストにかけての圧巻の展開に、私もしばらくの間拍手をする手が止まらなかった。会場に明かりが灯り、少しずつ観客が席を立つ。

 私も余韻に浸りながら息を吐き、席を立とうとした瞬間に腕を掴まれた。

「待って」

 腕を掴んで私を引き止めたのは、ハンカチを渡した男性だった。

 座っていた時は気づかなかったけれど、かなり身長が高い。一六〇センチの私が見上げるほどだから、恐らく一八五センチ近くはあるのではないだろうか。

 ついジッと見つめてしまっていると、男性の瞳の色が黒ではなく薄焦げ茶色していることに気づいた。

 その瞳の中に二重瞼の大きな目で見つめる私が映っている。
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