愛が溢れた御曹司は、再会したママと娘を一生かけて幸せにする

「ハンカチ、ありがとう」

「いいえ、こちらこそ余計なお節介をしてしまい、すみませんでした」

「いや、まさかミュージカルを見て泣くとは思っていなかったから助かったよ」

　そう言ってはにかむ表情はどこか少年らしさが抜けていなくて、ドキッとしてしまう。

「ハンカチ、洗って返したい。よかったら連絡先を教えてくれませんか？」

「連絡先、ですか？」

「あぁ」

　まさかこんな展開になるとは夢にも思わず、聞き返してしまった。
　それにミュージカルに夢中で恋愛もしたことがなく、男性とも挨拶を交わす程度しか話したことがない私には衝撃が強すぎて、どうすればいいのかわからず固まってしまう。

「決してやましい気持ちがあるわけではない。ただ、本当に助かったからお礼もしたくて……。周りに劇団四季を好きな友人もいないから、少し話がしてみたいとも思ったんだ」

　フリーズする私を見て迷惑に思っていると勘違いされたのか、彼は申し訳なさそうに続けた。

「もちろん嫌なら断ってくれてかまわない」

「すみません、びっくりしちゃって。……嫌じゃありません、大丈夫です」

　私も劇団四季の話をできる友達はおらず、毎回鑑賞した後には抑えきれない感想をSNSにアップして発散していた。

　それを誰かと共有できたらといつも思っていたから、彼と話をしてみたい。その思いが強くなって返事をすると、男性はホッとした表情を見せた。